第227話 ど戦士さんと利害の一致

【前回のあらすじ】


「どうも。旅の戦士にしてエロ文化研究家のティトです」


「本日は正しい土下座してヤラしてもらう方法をご説明したいと思います」


「まず、対象の女性から1メートルほど離れた場所に立ちます」


「次に誠意を見せるために、服をすべて脱ぎます」


「この時、相手に余計な警戒心を与えないために、また、自分の誠実さを示すために、脱いだ服はきちんとたたんで脇に置いておきましょう」


「次に、局部を極力見せないようにして――」


「はい、いいから、とっとと本編行くわよ」


◇ ◇ ◇ ◇


 くろがねの巨人を操ることができる血族。

 その最後の生き残り。


 魔性少年の言葉になみなみならぬものを感じて、場はすっかりと静まり帰った。


 一人、男戦士が騒いでいたが、これは強引に女エルフが後ろから口を塞いでことなきを得た。


「僕たち一族は、神代において長らく政争の道具として扱われてきました。しかし、くろがねの巨人の多くが壊れると同時にその呪いから解放されたのです」


「だぞ。第四次文明崩壊と呼ばれている時期の話だぞ」


「第四次?」


「人類は神代の頃に、最低でも六回は大規模な文明を崩壊させている――と、考古学の研究で明らかになっているんだぞ。それの四番目なんだぞ」


 そんな頻繁に人類って滅んでいるのか、と、ちょっと複雑な気分になる女エルフと女修道士シスター

 この手の話を一度喋りだすと、ワンコ教授の講釈は長くなる。


 適当に頷いて話題を流すと、彼女たちは視線を魔性少年へと戻した。


 再びシリアスな顔を造った魔性少年。

 彼は男戦士たちに向かっておもむろに頭を下げる。


 まるで先祖の起こした不始末を詫びるような、どこか沈痛な感じのする姿に、また場がにわかに静まり返った。


 そして頭を上げた魔性少年。

 その瞳には、真剣さと共に燃えるような決意が宿っていた。


「ただ、最後の一体――すべてのくろがねの巨人を倒したという二十八号だけは、半壊しながらもこの世界に残されたんです」


「二十八号」


「僕たち一族は、最後の一体となったそれを捨てて、山深くにこもりました。そして、自分たちに課せられた呪われた血を、自らの手で清算するべく、綿密に同族同士での婚姻を繰り返して、その血を濃縮させていったのです」


「なんのために」


「これ以上の力の拡散を防ぐために。そして、最後に残った二十八号――それを自壊させるだけの力を得るために」


 曰く、軍神ミッテルは、人類へ二十八体の巨人を譲渡する際に、それを操る力と共に、破壊する力も与えたのだという。

 巨人を与えられた少年は、その力で、悪鬼を打ち払ったのちにすぐに巨人たちを自壊させるべきであった。


 しかしそれは、各々の国々の思惑によって阻まれ、実行に移せなかった。


 そう、魔性少年は男戦士たちに説明すると、再び申し訳なさそうに頭を下げた。


 すべてはそう彼の祖先の起こした不始末である。

 しかし、そのためにここまでの責め苦を、彼の一族が――そして、魔性少年自身が負う必要があったのだろうか。


 流石にこの説明には、男戦士も女エルフも同情的な気分になってしまった。

 先ほどまで、その破壊について慎重論を唱えていたワンコ教授、そして女修道士シスターにしてもだ。


「ショーク国の高祖ゲントゥクは敬虔なミッテルの信奉者でした。彼は、彼が自ら見出した天才宰相コウメイにより、大陸中から軍神ミッテルにまつわる聖遺物を集めたのです」


「その中に、二十八号もあった、と」


「はい。おそらく、窮地に陥ったさいの切り札として考えてもいたのでしょう。しかし、操者の一族ファクターを持たない二十八号は動かない。結果、こうして、ミッテルにまつわる宝物を集めた塔、バビブの塔の頂上に鎮座されるに至ったというわけです」


「なるほど、大体の事情は分かった」


 男戦士がようやく落ち着いた顔をして魔性少年の話に頷いた。


 元来、困っている者は放っておけない、熱い性格をしている奴である。

 女エルフがわざわざその意思を確認するまでもなく、彼の決意は既に固まっているようだった。


「俺たちの目的は九階にあるという割符だ。君たちが目的としている、二十八号については正直なところどうでもいい」


「本当ですか?」


「たとえそれを手に入れたとして、操者の一族ファクターである君にしか二十八号は動かすことはできないのだろう? だったら、そんなものは宝の持ち腐れだ」


「だぞぉ。持ち腐れってことはないんだぞ。ちゃんと研究すれば、神代の兵器について現代に復活を――」


「ケティ、第七次文明崩壊を起こしたいの?」


 おもわず、研究者としての血が騒いだワンコ教授に、女エルフが釘を刺す。

 だぞ、と、こればっかりはワンコ教授もしょぼくれた顔をして黙り込んだ。


 彼らの一族が、長い年月をかけて破壊しようとしてきた兵器である。

 どんなに文化的な価値があろうと、その宿願を果たしてやるのが人情だろう。


「君たちは二十八号の破壊以外に塔を踏破する目的を持たない」


「えぇ」


「俺たちの割符についても興味はない」


「もちろん。というより、割符とはいったいなんのことなのですか?」


「まぁ、それは追々説明するとして――とにかく、これでお互いの利害は完全に一致した。同盟を組まない理由はない」


 それでは、と、初めて魔性少年の顔に、歳相応の笑顔が浮かび上がった。

 無邪気なその表情に応えるように、男戦士が手を差し出す。


「同盟締結だ。共に力を合わせて、バビブの塔を攻略しようじゃないか」


「ティトさん――ありがとうございます!!」


 しかし、なぜだか差し出されたその手を握り返そうとしない、魔性少年。

 あれ、どうしたのかな、と、男戦士が難しい顔をする。

 すると、少し気恥ずかしそうに少年は顔を赤らめ、それからうつむいた。


 どうしたのだろうか、この反応は。


 女エルフはもちろん、彼の連れである大剣使いも驚く。

 すると、あのう、と、消え入るような声で、魔性少年が口を開いた。


「すみません、その、一度手を洗ってきていただけますか」


「手を?」


「なかなか寝れないからって、その――昨日の夜、厠でハッスルしてから、洗ってないですよね、ティトさん?」


 なにやっとんじゃワレェ。

 女エルフたちの刺すような視線を背中に感じて、男戦士は青い顔をした。


 だって、男なんだもの。

 仕方ないじゃない。


◇ ◇ ◇ ◇


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 ヨシヲ好きな方は良ければお読みください。


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