第四章 大剣兄貴と超能力ショタロウ

第226話 どエルフさんと鬼殺し

【前回のあらすじ】


 男戦士が危惧していた変態剣使い――じゃなかった大剣使いの正体。

 それは男戦士と同じく、魂のエルフ名を持つエルフメイトであった。


「俺はハンス。魂の名は、オジチャン・ボク・ショタエルフダヨー」


 やばい匂いがぷんぷんする名前である。


「すまない、ショタエルフ以外は黙っていてくれないか!!」


 あ、はい、すみません。


「違うでしょーが!! 重要なのはそこじゃないでしょ!!」


 モーラさんまで……。


 すみません。


 とまぁ、大剣使いの趣味嗜好思想の自由は尊重するとして。

 問題は彼の相棒、魔性少年の目的であった。


 どうして彼はバビブの塔の十階――この世を統べる王たる者が持つに相応しい、絶対なる力を与えるアイテムが眠るというそこを目指すというのか。

 

 その問いに対して、彼は、その余裕ある笑顔を崩さず淡々と答えた。


「僕たちの目的は、バビブの塔の最上階に眠っている古代兵器――くろがねの巨人を破壊することです」


◇ ◇ ◇ ◇


【キーワード くろがねの巨人: かつて、この世界のありとあらゆる大陸に悪鬼が溢れかえり、人々を脅かしていた神代の頃。とある人間の少年が、軍神ミッテルに謁見し助けを求めた。ミッテルは、その半ズボンがよく似合うショタの願いを聞き入れ、鬼を駆逐する二十八体の巨人とそれを操る力をショタ少年に与えた。こうして、ショタ少年は悪鬼のことごとくを打ち倒し、世界に平和をもたらしたそうな】


「創世の神話に出てくるくろがねの巨人ですか?」


「だぞ!? もし、そんなものが本当に存在するなら、破壊するなんてとんでもない!! うちの大学で保存するんだぞ!!」


 その言葉に驚いたのは、ミッテルをはじめとする神々を信奉している女修道士シスター

 そして考古学者であるワンコ教授だ。


 二人とも、その職業的に魔性少年の言葉を看過することはできなかったのだろう。


 対して。


「ふむ、なるほど、そういう目的か」


「利害は一致するわね」


 男戦士と女エルフは淡々とその事実を受け止めていた。


 詰問した素振りとは裏腹、そのなんとも味気ない反応である。

 少し調子を外された感じに魔性少年が苦笑いをした。


 対して、怒ったの同じパーティメンバーである、女修道士とワンコ教授だ。


「何をそんなあっさりと受け入れているんですか!! 聖遺物ですよ!! 神が造りたもうた奇跡の賜物なんですよ!! それを壊すだなんて!!」


「だぞだぞ!! これだから金さえもらえればなんでもやる、冒険者は嫌なんだぞ!! モノの歴史的な価値を分かってないんだぞ!!」


「いやいや」


「ケティ、あんたも今は冒険者じゃないのよ」


 そんな仲間への抗議へもそこそこに、破壊するなんて断固反対、と、突如、魔性少年に向き直った女修道士たち。

 彼女たちの反応はある意味で仕方のないものだった。


 しかし、これに魔性少年がはっとするような真剣な顔をする。


くろがねの巨人の力により、大陸から鬼たちは駆逐され人類には平和が戻りました。このあたり、聖職者であるコーネリアさんはもちろん、考古学者のケティさんも詳しいですよね?」


「――え、えぇ、まぁ」


 いきなり、説明してもいないのに、自分の名前をいい当てられたことに、戸惑う女修道士。同様に、ワンコ教授も自分の名前を呼ばれて、はっとした顔をした。


「しかし、創世の神話にはこの後の記述がない。なぜだか知っていますか」


「――それは」


くろがねの巨人の所有権を巡って、人類で大きな争いが起こり、多くの命とが失われ、大陸が砂漠と化したんだぞ」


「ケティさん!?」


「教会側は失伝したとしてその事実を伏せているけど、考古学ではもはや定説となっている話なんだぞ。実際、神代に滅んだとされる都市の一部から、戦いあって壊れたくろがねの巨人が出て来たという報告もあるくらいなんだぞ」


「――そんな!!」


 事実です、と、魔性少年がワンコ教授の言葉をフォローするように頷く。

 これには流石に能天気だった、男戦士と女エルフも顔色を濁した。


 どうしてそんな風に言いきることができるのか。

 この少年はいったい何者なのか。


 目的が分かったことで、余計にそれが女エルフには気になり始めた。


「あなた、いったい何者なの?」


「ただの考古学好きの少年じゃ、済まされない知識です」


 おもわずワンコ教授と女修道士の間に割って入った女エルフ。

 しかし、その答えは魔性少年の口からではなく――。


操者の血族ファクター!!」


 後ろに居たワンコ教授からもたらされた。


 聞きなれない単語に首を傾げる男戦士たち。

 ただ一人、魔性少年だけがその言葉に頷いた。


 彼女の推測が事実である。

 そう言いたげに。


「だぞ。ミッテルは、くろがねの巨人を人類に贈る時に、一つの制約をかけたんだぞ。それは、、というものだったんだぞ」


「しかし、その力は彼一代では終わらなかった。少年の子孫たちに受け継がれ、そして、くろがねの巨人を動かすための要因ファクターとして、様々な国で、望む望まないを別にして、戦争に参加した――二十八体の巨人を率いて、同族同士で」


「そんな!!」


「すると!!」


 女エルフと女修道士の驚きの声が場に木霊する。

 そうです、と、魔性少年が頷いたその時――。


「ケティ、ファッ○したいなんて、そんな汚い言葉使ってはいけない!!」


「話を理解してなかったんかーい!!」


 男戦士がとぼけたことを言って場の全員をずっこけさせた。


 あは、あはは。

 魔性少年が頭をかきながら身を起こす。


「と、とにかく、僕はそういう訳で、一族の最後の一人――最後の操者の一族ファクターなんです」


「土下座しながら最後にファッ○したいんですなんて。頼み方がなってないじゃないか。もっとこう、やるなら誠意をこめて、言葉を選ばないと」


「だから、そういう話と違うというとろうが!! この――色ボケ戦士!!」


 べしり、と、女エルフが男戦士の頭を叩く。


 本当にこんなのと組んで大丈夫だろうか。

 不安な表情が、魔性少年の顔に、少しだけ浮かんだ。


◇ ◇ ◇ ◇


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 ノベゼロコン参加作品になります。


 ヨシヲ好きな方は良ければお読みください。


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884321155

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