第224話 どエルフさんと魔性少年たち

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 本作のサブキャラ、ヨシヲとビクターが活躍する番外編「【どエルフさん外伝】俺の名はブルー・ディスティニー・ヨシヲ」の連載を開始しました。

 ノベゼロコン参加作品になります。


 ヨシヲ好きな方は良ければお読みください。


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884321155


【前回のあらすじ】


 期間限定サマー装備モーラさん(白ビキニ)。

 レアティはUR。今なら10連ガチャでドロップ確率UP。


「そういうんじゃないからこれ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 気を取り直して、装備を選び直した女エルフ。


「マジシャン、しかもお前さんはアタッカーもサポートもできるバランスのいいタイプだ。その特性を普段なら活かすべきだが――幾らなんでも塔を登るにあたって、今のままじゃパーティは火力不足がいなめない」


「なるほど」


「そういう視点で、アタッカーとしての能力を底上げする水着装備を提案したんだけれど、気に入らないなら仕方ない。攻撃魔法の効果マシマシのアクセサリーに、動きやすいレザー装備で行こう。アクセサリーは魔法遅延発動マジック・ストックの指輪に、ペガサスのなめし皮で造った浮揚靴フローティング・ブーツ、ありきたりだが自立駆動魔導書オート・マジックの三点でどうだろうか?」


「なかなかいいチョイスじゃないの。気に入ったわ」


 エルフは金属系の装備を嫌がるが、そうも言っていられる状況ではない。

 銀色をした指輪をその白い指先にはめ、白色のブーツを履き、周りに魔導書を浮揚させながら、よしよし、と、女エルフが頷いた。


 気に入ってもらえたらなによりだ、と、店主が満足げに微笑む。

 さて、それじゃ貰うものは貰わないとな、と、彼はさっと領収書に、これらの装備の値段を書き上げた。


 ――しかし。


「むっ? 最初に提示した予算を、少しオーバーしているようだが?」


「塔の頂上付近まで挑むんだろう。普通に登るのに最良のとは言ったが、踏破するのに最良のとは言ってない」


「この商売上手め」


「まぁそう言うなよ。こっちとしても、みすみす見立てた装備でおっなれたら、たまったもんじゃないんだ」


 店主の方も、別にふっかけているという感じではない。

 純粋に彼らのオーダーに応えての値段なのだろう。


 ふむ、と、男戦士が視線を女エルフに向ける。


「装備しちゃったものを今更、やっぱお金がもったいないんでナシで、とは流石にいい歳した冒険者として言えないでしょ」


「まぁ、そうなるが。参ったな、薬草などの道具についても、充実させておきたかったんだが」


「ダンジョン内で調達するというのはどうでしょうか」


「だぞ!! モンスター料理なんだぞ!!」


 それやったら、この作品にいろんなところから苦情が来るのでやめてください。

 などと作者が困っていると、店の入り口に二つの影が差しこんだ。


 一人はその影と同じように、黒い服に身を包んだ小柄な少年。

 そして、もう一人は背中に大剣を背負った、緑服のマントの男。


 それは間違いなく、男戦士たちが昨日泊まった宿で出会った、魔性少年と緑の巨漢であった。


 いい尻をした大剣使いの登場に、はっと、女修道士シスターの顔が赤らむ。

 そんな反応をあえて無視するように、涼し気な足取りで魔性少年が男戦士たちの方に近づいて来た。


「いい装備ですね。それなら、バビブの塔を踏破できそうだ」


「――ありがとう。しかし。装備ばかりが冒険の成否を決める要因ではない」


「分かっていますよ。回復アイテムや食糧なんかの備蓄も大切ですからね」


 まるでこれまでの店主との会話をすべて把握しているかのような口ぶりに、思わず男戦士が眉をしかめた。そんな反応をまた面白がるように――魔性少年が不敵な笑みを彼へと返した。


 だぞ、と、ワンコ教授が不安げに胸に手をあてる中、彼はいきなり店主を見た。


 これまた自然に、なんでもない感じに店主から領収書を奪い取る魔性少年。

 ふぅん、と、鼻を鳴らした彼は、その紙切れの代わりにとばかりに、服の中から巾着を取り出したのだった。

 じゃらりじゃらりと響く音から、中に硬貨が入っているのが嫌でも分かる。


 そんなものを取り出して、いったいどうしようというのか。


「この装備の料金、僕がお支払いしてもいいですよ」


「えっ?」


「なに?」


「まぁ?」


「だぞ?」


 それはまったく、男戦士たちが予想していない提案であった。

 しかし、どうしてそんなことを言ってくるのか――それについては、わざわざ考えるまでもなかった。


「ただし、僕たちに協力してくれるなら、です」


「なるほど」


「同盟交渉って訳ね」


「はい。どうやら貴方たちは、バビブの塔の最上階ではなく、九階に用があるみたいですね。では、そこまで僕たちと共同戦線を張る、というのはどうでしょうか」


 どうする、と、パーティーの視線が男戦士に集まった。

 もとより協力できる人間が居るのなら、それに越したことはない、と、話はしていた。そして、この魔性少年たちも、その候補として話題の俎上には出たのだ。


 それが向こうからやって来たとなれば、断る理由はない。


 だが。この契約、決して安くない契約である。


「同盟を組むことはやぶさかではない。けれども、その前に、君たちに聞いておきたいことがある」


「はい、なんでしょうか?」


 勿体ぶって、男戦士が間をおく。

 そこまでして頂上を目指す、その目的はなんなのか――それを聞かないことには協力できない。ということなのだろう、と、女エルフが思ったその時。


 男戦士が唐突に、魔性少年の隣に立っている、大剣使いに向かって土下座した。


「すまない!! いったい何がどう同じなのか教えてくれないか!!」


「そっちかぁい!!」


 男戦士は、まだ、大剣使いが言ったことを気にしていたのだった。


「頼む!! そこのところをはっきりしないと、後ろからズブリといかれるかもしれないという恐怖で、俺はまともに戦えないんだ!!」


「どうでもいいがな!!」


 後ろからズブリするかもしれない、当の女修道士が、はて、なんのことやらと、首を傾げる中、男戦士は眼から滝のような涙を流してその問いの答えを求めた。


 味方に後ろから攻撃されることほど、この世の中に恐ろしいものはない。

 それでなくても、あんな太いものを突っ込まれると思えば――。


 男戦士の不安は至極まっとうなものであった。

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