第223話 どエルフさんとおすすめ装備

【前回のあらすじ】


 世の中には自分に似た人間が三人は居るという。


 たまたまた入った道具屋で出会った店主。


 それは最近出番がなくて久しい――もとい、中央大陸で別れてより話に絡むことのなかった、いきつけの道具屋の店主にそっくりな男だった。


「そんなに軽い鎧が欲しいなら――ビキニアーマーでも着てろってんだ!! 防御と同時に攻撃もできて一石二鳥ってか!! がははっ!!」


「あ、そういう発想は同じなんですねぇ――」


 エルフ好きこそこじらせていないが、発想は基本的に同じ。

 やれやれ道具屋の店主というのは、どこもこういうものなのだろうか。


◇ ◇ ◇ ◇


「という訳で、塔に挑むのに装備を整えたい。提示した予算内で、できうる限り最良の装備をお願いしたいのだが」


「お安い御用よ。なんといってもここバビブの塔は、冒険者たちで年中あふれた冒険の聖地だからな。品ぞろえには自信があるぜ」


「なんだか心強いわね」


「提示された予算なら、うちに置いてる装備の中で最良のものを都合できるが――それよりは、塔に挑む階層だな。それぞの階によって、発生しているモンスターも違えば、必要となってくる装備にも幅が出る。どこの階まで挑むつもりだ?」


「頂上――の手前、九階まで」


 男戦士が淀みなく発したその言葉。

 しかし、それを受けて店の中に居た冒険者たちが、一斉にしてざわめいた。


 当の正面に立っている店主にしても、その表情をこわばらせている。

 これはどういう反応なのだろうか、と、男戦士たちが首を傾げた。


「マジかよ、踏破狙いか。そいつは久しぶりに骨の入った冒険者だぜ」


「そんなに塔の頂上を目指している冒険者は少ないの?」


「おうよ。塔に挑む冒険者は、だいたい四階までで降りてきちまう。そこまでのモンスターからとれる素材で、そこそこの利益が上がるからな。そんでもって、五階以上のモンスターは、なんていうか……割が合わないんだ」


「その話、そういえば宿でも聞いたわよね」


「モンスターからとれる素材を考えると効率がよくなくって降りてくるんだっけ」


「それもあるし、五階からは、それぞれその階を守護しているフロアの守護者ガーディアンがいるからな。モンスターとは別にそいつらが厄介なのさ。だが、それでも頂上を目指すという酔狂な奴は、まぁ、年に数人は居るな」


 しかしながら、ここ数年、九階へと到着した者はいない――というのが、北の大エルフが男戦士たちに説明した話である。


 ふむ、と、男戦士は自分の顎へと手をあてた。

 彼なりにどうやら思う所があるらしい。


「ダンジョンに踏破を求めず、素材を求める人間も多い。それ自体を否定する気はないが、なんだか覇気のない話で面白くないな」


「そうよ、ダンジョンは攻略してこそダンジョンでしょ!!」


「モーラさんまで。お二人とも、目的を忘れていませんか」


「だぞ!! 僕たちの目的は、九階にあるという割符なんだぞ!! 塔の踏破は二の次なんだぞ――とはいえ、なんだかお宝がある感じだから、ちょっとくらい、ほんのちょっとくらい余裕があるなら、行ってみるのも悪くないかもしれないんだぞ!!」


 そういえば、ちょいちょいと話に出てくるが、頂上の宝とはなんなのだろうか。

 不意にそんなことが気になった女エルフだったが――。


 いまはそんなことに構っている場合でもない。


「とにかく、踏破に必要な装備を頂戴!!」


 それについて考えるのは、まずは当初の目的を満たしてからだ。

 割り切って、女エルフは、はっきりと必要とする装備について言い切ってみせた。


◇ ◇ ◇ ◇


「塔の五階以降は、モンスターの攻撃力が高くなる。メインアタッカーの戦士は、防御力に特化をしておく必要があるな。少し重いが、フルプレートメイル一式がおススメだ。あとは盾、ラウンドシールドだと心もとない。ミスリル盾があるので、こいつを装備することをおススメする」


「ふむ。久しぶりの重装備だな。まぁ、メインアタッカーは俺一人だから、防御力を重視するのは仕方ないか」


 フルプレートメイルを着込み、ミスリルの盾を左手に持つ。

 男戦士が店主のおすすめ装備の具合を確認するように手を振った。


 いつもはレザーメイルに肩当などの、軽装を好んでいる彼。

 だが、なかなか重装備も様になっていた。


 次、と、店主がワンコ教授の方を向く。


「セージ・シーフポジションのパーティは、とにかく小回りが利くに限る。レザーメイルと鉄板仕込みの靴。あとは、こまごまとした道具を入れるのにサイドバックだ」


「だぞ、これはあんまり普段と変わらないんだぞ」


「あとは手袋だな。五階より上のトラップは、正直人が入らないから未作動のモノしかない。繊細な扱いが必要とされる。獣人族の手に馴染むよう、特別になめした毛皮の手袋だ。こいつを使えば、トラップの解除率は格段に上がる」


「だぞ!! そんな便利な装備があるなんて、びっくりなんだぞ!!」


 店主から渡された手袋をさっそく手にはめてみるワンコ教授。

 ぐっぱ、ぐっぱと手を握っては開けてその感覚を確かめる。なるほど、店主が自信を持って言うあたり、それは彼女の手に馴染んでいるようだった。


 にっと笑うワンコ教授。

 そんな彼女の反応を確認してから、店主は次に女修道士シスターを見た。


「ヒーラーはとにかく生き残らなくちゃならねぇ。つっても、アタッカーがそこは守ってくれるだろうが……念には念を入れてって奴だ。重装備だと魔法を使うのに障害になっちまうから、魔法防御力の高い高級ローブと、マジックシールド展開ができる指輪を用意した」


「防御力マシマシですね!!」


「ただし、仲間に使う魔力を使い切っちまわないように、注意が必要だがな」


 指輪を手にはめ、新調したローブに袖を通して、くるりとその場で一回転する女修道士。ためしに展開してみた、魔法シールドは青色で、それに合わせて店主が軽く投げたリンゴをこつりと音を立てて弾いてみせた。


 これならば、男戦士が万が一、守り損ねても安心だろう。


 さて、残るは女エルフの装備だが――。


「なるほど、流石は品ぞろえに自信ありと、声を出して言うだけはあるわね。なかなかの装備チョイスじゃない」


「だろう」


「けど、一つ聞いていいかしら――」


 真っ白なビキニアーマー。

 いや、もはやアーマーですらない。


 ビキニ姿に魔法杖を持ち、麦わら帽子を装備したエルフ娘。

 常夏エルフがそこには立っていた。


「この、装備は、いったいどういうことだ?」


 言葉にちょっと棘があった。


 よもや、いつものセクハラオチに繋がるとは思っていなかった女エルフ。

 それが蓋をあければこれである。


 怒らない訳がないだろう。


 やはりお前も、中央大陸の店主と同じ、エルフメイトか、そうなのか。

 と、女エルフが思ったその時、にやりと店主が笑ってみせた。


「分かってねえな、お嬢ちゃん。これこそ、今、最も効果の高い装備!!」


「最も効果の高い装備?」


「そう――期間限定イベントグラって奴なんだぜ!!」


【キーワード 期間限定イベントグラ: なんかこう、特定のイベントの時だけにガチャで出たりでなかったり、そのためにカードを買ってきて、「今から水着百連やりまーす」とか言って爆死して、でませぬ、とかそういう感じのアレです。薄着なのに、攻撃力とか防御力とか高まってるのがすごいよね。ほんと、すごいよね】


「この装備により、アンタはマジシャンからジョブチェンジ――今日からルーラーという、殴って敵を倒すアタッカーになれるんだぜ!!」


「なれるんだぜ、じゃない!! いらんわ、そんな装備!!」


 なぜだ、と、激高する店主。

 最高の装備を用意してくれと頼まれて、そんな風にキレられる。

 それは、そういう風に言いたくなるだろう。


「どこへ行っても道具屋でセクハラを受ける」


「安定のオチ要員」


「流石だなどエルフさん、流石だ」


「流石です」


「流石なんだぞ」


「誰がオチ要員じゃぁい!! とにかく、こんな装備、私は絶対に使わんからな!!」


 オチ要員エルフは、いつものように渾身の声で叫んだ。


「だから、オチ要員じゃないっての!! もう、バカぁっ!!」

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