第222話 どエルフさんとドッペルゲンガー

【前回のあらすじ】


 (神の愛を)れたいお尻。


 君の尻の穴に(神の愛を)れたい。


 神の愛、耳かられるから、尻かられるか。


 美人神官が神の愛を尻の穴から挿入するのは残業ですか。


 魔性少年の相棒である大男。そんな彼から、去り際にかけられた言葉に、ついぞそんな自問自答をしてしまう男戦士。


 知力1のこの男は意外と繊細であった。


「寝れない。まさか、寝ている間に、シコりんが襲ってきたりなんてことは」


 そう言って、尻を抑えながら女修道士シスターの様子を窺う男戦士。

 東方の島国に伝わる伝説の寝具「オフトゥン」に包まれて、すよりすよりと寝息をたてていた。


 その輝くしいたけの双眸が閉じられているのを確認すると、彼はようやくほっと息を吐き、自分の尻から手を離すのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「うぅん、いい温泉にいい寝床!! 船旅で溜まった疲れもすっかり解消――最高の宿だったわ!!」


「ですねぇ、特にオフトゥンが最高でした」


「そうよねぇ、あれは反則だわ」


「床で寝ているのに、そんな心地が全然しないというか」


「だぞ!! 思わず出られなくなるところだったんだぞ!!」


 すっかりと旅の宿を楽しんだ女エルフたち。

 つやつやと輝く肌に、英気漲るその瞳。

 どうやら彼女たちは、完全回復に成功したようであった。


 対して――。


「宿の料金に尻の心配、その他もろもろでまったく心が休まらなかった。やはり泊まるのではなかった、こんな宿」


 どんよりと目の下に隈をつくって青白い顔をした男戦士。

 まるで毒の沼に今さっき足を突っ込んでしまいましたというような、そんな塩梅である。宿から出て来てそんな顔をする奴がいるだろうか。


 不死身の鬼の呪いを持った男戦士でも、精神的な疲労からは逃れられない。

 慰安旅行をして逆に疲れるということはよくあることだが、流石にこいつはひどいなと、女エルフたちは男戦士の姿に苦笑いを浮かべた。


「さて、それじゃ、ダンジョンに入る前に装備を整えるとしましょうか」


「そうですね。防寒優先で、ある程度装備を限定してしまいましたし」


「だぞ。ちょうどそこに道具屋があるんだぞ」


 と、目ざとく指さしたのはワンコ教授である。


 道具屋、と、シンプルに書かれた看板のぶら下がったその一軒家。

 二階建てになっているそこは、どうやら塔のおかげでそれなりに繁盛しているらしく、彼ら以外の冒険者が先んじてその扉を押して入って行く姿が見えた。


 ここならば、そこそこ充実した装備をそろえられるだろう。


 現金なもので男戦士の顔に英気がにわかに戻った。

 冒険者としての性という奴だろうか。


 なんにせよパーティのリーダーである彼に元気が出るのはいいことだ。

 女エルフは、ほっとした顔をしながら振り返ると、そのまま店の扉を押した。


「いらっしゃい!!」


 響いて来た声の調子になんだか妙な聞き覚えがあった。

 同時に、今回の旅に出てから久しく感じていなかった、背筋を走る嫌な悪寒を女エルフは感じた。


 なぜ、どうして。

 こんな彼らの拠点から離れた地に――この男がいるのか。


「店主!?」


「店主さん!?」


「だぞ!?」


「嘘でしょ、ちょっと、なんでアンタがこんな所に居るのよ!!」


 それは彼らが贔屓にしている道具屋の店主であった。

 いや、厳密には。


「――なんだなんだ!! 初対面の人間に向かって、いきなり!! お前らなんて俺は知らないぞ!!」


 彼のそっくりさんであった。


 なんにしても思わぬ出会いに男戦士たちの表情が固まる。


「店主ではない?」


「そっくりさんですかねぇ。確かに、本人なら、モーラさんを見るなりもっと騒ぎそうなものですけれど」


「そうよね、間髪入れずにどこぞのアホと同じく、セクハラかましてくるはずだわ」


 ひどい言われようである。

 今、身売りされた少女エルフたちを救わんと、遠き中央大陸で頑張っている店主に対してあんまりではないだろうか。


 まぁ、日ごろの行いの報いという奴であろう。


「だぞ。世の中には、似たような顔をした人間が、三人はいると聞いたことがあるんだぞ。もしかすると、ここの店主といつもの店主がそれなのかも」


「なるほど」


「いや、実は生き別れの兄弟とかじゃないの?」


「あの店主さんに兄弟がいたとして、それこそ、モーラさんの登場にもっとハッスルすると思うんですが」


「うむ。コーネリアさんの言う通りだと俺も思うな」


「どういう意味よ!!」


 なにせ、エルフ装備専門店なんてものを立ち上げ、今、エルフ喫茶を立ち上げようとしているあの男である。もしその男と同じ血が流れているのならば――同じようにエルフに対して反応してもおかしくない。


 しかし、見たところ、目の前の彼にはそんな素振りは微塵も感じられない。


「なんだいなんだい。冷やかしなら帰ってくれよ。こっちも忙しいんだ」


「えーっと、この店って、普通の道具屋よね」


「それ以外のなんだと思って入ったんだよ」


「――エルフ専門装備とか、道具とか、そういうの扱ってる訳じゃないわよね?」


「どうしてそんな商売にならなさそうなものを扱わなくちゃならんのだ。なんだ、やっぱり冷やかしか。勘弁してくれよ、まったく」


 違う、これは、絶対に違う。

 そう女エルフが確信した。


 そして――どうせならこいつが拠点の道具屋の店主だったらよかったのに、なんて、ちょっと不謹慎なことを思ってしまったのだった。


「姉ちゃん、エルフ専用の装備なんてある訳ないだろう。世の中がそんなエルフに優しいだなんてある訳ないじゃないか。甘ったれんな」


「あっはい、その通りだと思います」


「まったく、それでなくっても、エルフの奴らは装備の注文が多いんだよ。やれ、上質な素材の服じゃなければ嫌だとか、重い鎧は着れないから丈夫なレザーメイルがよいとか。お前らの趣味に合わせて、こっちは仕事してるんじゃねえっての」


「本当にその通りです、はい、返す言葉もございません」


「そんなに軽い鎧が欲しいなら――ビキニアーマーでも着てろってんだ!! 防御と同時に攻撃もできて一石二鳥ってか!! がははっ!!」


「あ、そういう発想は同じなんですねぇ――」


 思わず、懐かしい気分に女エルフ、そして男戦士もなってしまったのであった。


 流石だな道具屋の店主、さすがだ。


「ほら、で、今日はいったい何をお求めなんだい!!」

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