第221話 ど戦士さんと謎の少年・中年

【前回のあらすじ】


 自称超能力者の金髪少女が現れた。


「くはははっ!! よいぞよいぞ!! わらわの力を思い知るがよい!!」


 場は混乱した。


 さらにそこに、紅顔美少年が現れて、超能力(ガチ)を披露した。


「まぁ、このくらいのことは、ねぇ? それより、冒険者はもっと慎重に選んだほうがいいと思うよ」


 金髪少女は混乱した。


 女エルフは混乱した。


 ワンコ教授も混乱した。


「ちょっとお二人とも、なにをあんな少年の色気にあてられているんですか!!」


「そうだぞモーラさん!! 俺というものがありながら!!」


 そこに緑の服を着た、ガチムチいいケツしたおっさんが現れた。


「あの尻、神の愛を注入しがいがありそうです!!」


「シコりーーーん!!」


 女修道士シスターまで混乱した。


 しかし、一番混乱しているのは、新キャラ出しまくってちょっとあれな作者であった。誰か、助けて。まとめサイトでも作って。


◇ ◇ ◇ ◇


 突如として現れた筋骨隆々のマッチョメン。

 その男の威容とモミアゲに気おされて、黒服の男たちがざわつく。


「この隙に、部屋に戻るというのはどうかしら」


「だぞ。悪くない発想だぞ」


「えぇ? もう少し、もう少しだけあの立派なお尻を……」


「シコりんしっかりするんだ!! 君のその神の愛注入棒は、モンスターのためにあるのだろう!!」


「人もモンスターも、神の愛の前には関係ありませんから」


「シコりーーーん!!」


 もうしっちゃかめっちゃかである。

 いよいよ、収拾がつかなくなってきた所で、ぱん、と、場を締めるように魔性少年が手を叩いた。


 その瞳に青い光を走らせて、彼は、はいここまで、と、口にする。


「ヤミさんは入浴が終わった。僕たちも入浴が終わった。そしてそちらの――ティトさんとモーラさんたちは、まだ入浴が済んでいない訳ですよね」


「え、えぇ、まぁ」


「そうだが――どうして、君は俺たちの名前を」


「会話を聞かせていただいてましたから。どうでしょう、ここはお互い冷静になって、これまでのやりとりを水に流し、本来の予定通りに動くというのは」


 実に妥当な魔性少年からの提案だった。


 おそらく、前に出会った少年勇者や、女騎士の従士とそう変わらない年齢だろう。

 なのに、どうしてこうもどうどうと――大人相手に話ができるのだろうか。

 色香はともかくとして、男戦士は彼の胆の据わりぶりに感心した。


 一方、先に手を出してきたのはそっちでしょう、まずは、謝りなさいよ――くらいのことを普段ならいいそうな女エルフだが。


「そ、そうね。ちょっと大人気なかったかもしれないわね」


 妙にしおらしい反応をしてみせた。

 対して、彼女にはっぱをかけられた金髪少女の方も。


「ふ、ふん!! まぁ、こちらにも落ち度はあったしのう!! 今回は特別に許してやるとするか!!」


 とまぁ、こんな塩梅で、簡単に二人は矛をおさめた。

 それはよかったと、怪しく微笑む魔性少年。

 そんな彼に、ますますと、感嘆と共に懐疑の視線を向ける男戦士。


「おい。なんださっきから、ジロジロと」


 と、そんな視線に割って入るように、緑の巨漢が男戦士の前に立ちはだかった。

 魔性少年の護衛として、男戦士の視線が気になったのだろう。


「えっ、あぁ、いや、その――」


 険しい緑の巨漢の視線を前に、男戦士が少し気圧された。

 武器を持っていて、精神的なコンディションが万全だったならば、そこは負けじと劣らない歴戦の兵の男戦士だ。きっと臆することはなかっただろう。

 だが、高級旅館に泊まるというショックと、さきほどからのやり取りですっかりと疲弊している彼は、珍しくたじろいだ。


「うん?」


 そんな男戦士を前にして――ひくりひくりと、巨漢の男の鼻先が動いた。


 男戦士の匂いをまるで嗅いでいるかのようだ。

 いや、事実、そうなのだろう。


 どうしてこんな大男に、匂いを嗅がれなければいけないのか。

 戦闘においてはどんなことがあろうともひるまない鋼の心を持った男戦士。

 しかし、やはりそれはいつもの装備と精神状態があってのこと。


 慣れないユカータに宿泊施設。

 混乱の極みに達してしまった彼は、そうして、一言も彼に返すことができないまま、巨漢の男にされるがままに、その匂いを嗅がれたのだった。


「――なるほど」


 男戦士の匂いを嗅ぎ終えた、緑の巨漢がにやりと笑う。


「な、なにがいったい、なるほどなんだ!!」


「どうやらお前は、俺と同じようだな」


「なにっ!?」


 どういう意味だ。

 ようやく、男戦士が問い返そうとしたところを、すっと緑の巨漢が通り過ぎた。

 もうお前には興味はない、とでも言いたげなそんな素振りで。


 肩透かし、男戦士がぎょっと目を剥いて、通り過ぎた巨漢の方を振り向く。

 だが、彼がその視線に振り替えることはなかった。


「いくぞコウイチ。ダンジョン探索は過酷だ、無駄に使う体力なぞないぞ」


「待ってくださいよハンスさん。それでは、みなさん、ごきげんよう。また、で」


 ダンジョンというのはバビブの塔のことだろう。

 どうやら彼ら二人も、男戦士や金髪少女たちと同じく、バビブの塔を攻略しようとしているらしい。


 しかもその口ぶりから高階層――男戦士たちが目指す九階と同じかは分からないが――への到達を目標としているらしい。


「チームを組むなら、小娘より、断然あっちよね」


「だぞ」


「いい、お尻、です――はぁ」


 男戦士たち一行の視線を受けて、廊下の先に消える緑の巨漢と魔性少年。

 彼らが過ぎ去ってから、浴場前の広間に男戦士パーティの物憂げなため息が満ちたのは、仕方のないことだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「おぉ!! 流石は源泉かけ流し!! 熱い、綺麗、そしてこのむせかえるような硫黄臭!! 最高かな!!」


「モーラさん、テンション上がりすぎですよ」


「だぞ。落ち着くんだぞモーラ。まずは体をよく洗ってから、湯船には入らないとほかのお客さまに失礼なんだぞ」


 女風呂から声が聞こえてくる。


 ここで、サービス精神旺盛な小説であれば、石鹸で体を洗いっこしたり、バスタオルがはだけて胸がぼろろんしたり、男湯と女湯を隔てるベルリンの壁が崩されてきゃーんいやーんな所であるが。


「いったい、一緒とはどういう意味なんだ」


 残念。

 カメラ――神の視点は男風呂に向けられていた。


 すまない、本当にすまない。ストーリーの進行上の都合と、ギャグの都合で、サービス回をふいにしてしまって、本当にすまない。


 それはさておき。


 男戦士は露天風呂を前に、椅子に座って考え事をしていた。

 股間には、一応手拭いを忘れない。

 いついかなる時も、股間――急所を守るのは戦士の心得である。


 しかし、いま、彼の頭の中を占拠していたのは、それではない。


『どうやらお前は、俺と同じようだな』


 それは去り際。

 緑の巨漢が残していった、謎の言葉だ。


 正直なところ、男戦士にはそういわれるだけの心当たり――緑の巨漢との共通点について、まったくと言っていいほど思う所がなかった。


 いや、戦士という意味では確かに同じかもしれない。

 しかし、あんな意味深に、そんなことを言うだろうか。


「分からない。あの男と、俺の共通点が、まったく思い浮かばない。何がいったい、同じだというんだ」


 まさか。

 つぶやいて、男戦士はそっとお尻に手を当てる。

 その想像にサブいぼが背中を駆け上がっていた。


 同時に、女修道士の声が、彼の頭に響く。


「いい、お尻、です――はぁ」


 もし、その男戦士の予想通りだとしたら――。


「これから、コーネリアさんには、背中を向けることができなくなるな」


 寒気を誤魔化すように男戦士は湯船に桶を入れた。

 誰も入っていない露天風呂から、湯気がたちのぼる温水をすくい上げると、それを勢いよく頭からかぶった。

 まったく、せっかく高級旅館に泊まったというのに。

 どうしてこうも心も体も休まらないのだろうか。


「ちょっとコーネリア、あんたまた大きくなったんじゃないの?」


「モーラさんこそ――倍くらいにはなったんじゃないですか?」


「ふふっ、ゼロに何をかけてもゼロなのを知ってて言ってるわね。この、自分が持ってるから調子に乗りやがって、オッパイ女修道士シスター


「喧嘩はやめるんだぞ!! もう、静かにお風呂には入るんだぞ!!」


 申訳程度に聞こえてくるサービスボイスもそこそこに、男戦士はもう一度、自分の尻を触るのであった。


 同じはずなどない。

 挿入したくなる尻ではない。

 そう、自分に言い聞かせながら。


◇ ◇ ◇ ◇


「さっきの彼らだけれど、どうかな、ハンスさん」


「――少なくとも、あの男戦士」


「うん、ティトさんだね」


「武器を持たせれば俺以上の実力はあるだろう」


「へぇ!! そうなの!! ハンスさん以上か!! それはいいねぇ!!」


「並の腕ではない、それは間違いないだろう。誘うだけの価値はあると思う」


「ふぅん、なるほどねぇ。あとは、利害がどう一致するか、か」


 自室に戻った魔性少年と緑の巨漢。

 彼らは敷布団の上に胡坐をかいて先ほどあった者たち――男戦士たちのことについて語っていた。


 どうやら彼らも、仲間を探しているらしい。


「十階のくろがねの巨人が目的でなければいいのだけれど」


「コウイチ。誰が聞いているか分からないのだ。口は慎め」


「大丈夫ですよ。塔に――くろがねの巨人に近づいたおかげで、僕の感知能力も高まっているみたいです。僕たちの言葉を盗み聞きしている者がいたら、すぐに察知しますよ」


 闇の中で、また、少年の瞳が青く光った。


 無機質に。

 冷たく。

 そして、妖艶に。

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