第196話 どダークエルフさんと彼女たちの目的

【前回のあらすじ】


 暗黒騎士の相棒である、ダークエルフにより拘束された男戦士。

 そこに女エルフがかけつける。


 はたしてダークエルフの言葉により、捕縛されているそれが男戦士だと知らされる女エルフ。そんな中、男戦士の体が元の人間のものに戻っていく――。


「安心してください!! 見えてませんよ!!」


「えばって言うことか!!」


 シリアスパート突入と思いきや、このフットワークの軽い小ボケ感。

 流石だなど戦士さん、さすがだ、という感じで、彼は服を着るように女エルフに促されるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 服を着なおして、再び相対する男戦士とエルフたち。

 まるで変身中のヒーローを襲わない悪役のごとく、その様子を半ばあきれた目で見ていたダークエルフが、もういいかしらと声をかける。

 大丈夫よ、と、女エルフがその声に応じた。


「アリエス、とか言ったわよね。あなた、いったい何者なの」


「さて」


「この城全体に狂化の魔法をかけていたのは貴方よね」


「かいかぶりでしょう」


「とぼけないで!! 貴方――ティトが磔にされたときに、、と、確かに言ったわよね!!」


「なるほど、さすがはこの冒険者の相方。記憶力と頭の回転だけは速いようですね」


 観念するようなため息がダークエルフの口元から漏れる。

 並ぶ男戦士と女エルフに冷たい視線を注ぎながら、彼女は後ろ手に杖を回した。


 それは休戦の合図、彼女に戦意のない意思表示であり、対話を求めるポーズであった。少し、女エルフの肩から力が抜ける。


「そちらの方――ティトさんは、我が真なる主の盟友。無碍にするのも申し訳ないでしょう」


「だったら最初から助けなさいよ!!」


「それは仕方ありません。あの時、すでに私たちの計画は始まっており、その計画の実現のためには、あの場でレジスタンスのリーダーである、あの男が死ぬ必要があったのです」


 なんとなく、女エルフにそうでなければならない理由は想像できた。

 赤い外套の男、彼がレジスタンス内での存在感を強めるためだろう。


「目的は彼がすでに言っているはずです。この地に戦乱を起こし、政府機能を麻痺させる。政変により女王の首をすげかえてもしばらくは、政情不安は続くでしょう」


「――それが何の」


「南の国も公爵派のクーデターにより、その政治機能は混乱しています。となれば、この大陸の東と南は、まともな統治状態を維持できていないことになる」


 話のスケールがいきなり変わった。

 この国自体の破壊が目的ではなく、これは手段の一つにしか過ぎないのか。

 だとして、そんな風に大陸に混乱をもたらす、真の目的とは何なのか。


 思わせぶりな口ぶりに、また女エルフの顔が険しくなる。

 そんな表情をからかうようにダークエルフはほくそ笑んだ。


「これ以上は、流石に私もお話しすることはできませんよ」


「その真の目的を邪魔されることになるから?」


「――貴方たちに邪魔ができるようなことではありません。けれども、それを知ったからには、生きてこの場より帰すことはできないでしょう」


 それは暗黒騎士の意思に反している。

 だから当たり障りのない範囲で、ダークエルフは言葉を選んでいる。

 そのように女エルフには見受けられた。


「けれども、今回のクーデターは失敗です。あの男――ドエルフスキーの合流が予想外でした。流石は伝説の、と、いう所でしょう」


「へん、なにをいまさら負け惜しみを」


「エドワルドもこの様子ですし。これ以上の戦闘続行は不可能でしょう。おめでとうございますモーラさん、そしてティトさん。今回はあなた方の勝利ということにしておいて差し上げます」


 そう言って、ダークエルフの体が青色の光に包まれる。

 転移魔法そう気が付いた時には、彼女の体はすっとその場から消え去っていた。


 転移先を追うにも、既に姿を消されてしまっては対応のしようがない。

 後ろ手に杖を隠しながら、ダークエルフは逃げる機会をうかがっていたのだ。


 まったく迂闊としか言いようがない。女エルフが舌打ちした。

 そんな彼女たちの頭の上に消えたダークエルフの声が響く。


「貴方たちの義侠心については、素直に尊敬の念を表します。途中で投げ出す機会はいくらでもあったでしょうに。最後までこの事件に関わった貴方たちは、まさしく真の冒険者、英雄と称賛されるべき者たちでしょう」


「最後の最後におべっか? 気持ち悪いわね」


「できることなら今後、貴方たちと顔を会わすことがないことを祈っています。もし、再び相見えることがあったならば、その時は――」


 それで、ダークエルフの声は途絶えた。


 気が付くと岩場に打ち付けられた赤い鬼の死骸も消えている。


 戦いは終わった。

 終わったが、それはなんとも歯の浮くような、すっきりとしないものだった。


「アリエス。いったい、何者なの。そして、何が目的だというの」


「モーラさん。今は一旦、そのことについては忘れよう。まずは、この騒ぎについて決着をつけるのが先決だ」


「――そうね」


 けど、その前に、と、女エルフが男戦士のほうを振り返る。

 どうしたんだいと男戦士がいつもの紳士然とした調子で言うより早く、女エルフの振りかぶった白い手が、彼の頬を激しく打った。

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