第192話 ど戦士さんと赤鬼
【前回のあらすじ】
仮面の戦士は【鬼族の呪い】持ちだった。
呪いの力を開放し、赤い鬼へと変貌した仮面の戦士。城を破壊していくその驚異的な力を前に、男戦士は女エルフに城に残る人たちを助け、一緒に逃げるように頼み、再び剣を握った。
はたして城の外へと逃げ延びた女エルフたち。
王都の広場から彼女たちが見守る中、男戦士、ドワーフ男、そして青い運命に導かれてやってきた男ヨシヲによる、オーガとの戦いがいまはじまった。
◇ ◇ ◇ ◇
鬼族の最大の脅威は、その強靭な肉体と、驚異的な再生能力である。
以前、二つ角の鬼族の呪いを持っていたオークと戦った時もそうであったように、鬼族の呪いは戦闘能力だけでなく、超回復能力さえもそれを受けた者たちに与える。
故にこの悪鬼たちを屠るには、首を落とすか、胴を割るか、回復不能のダメージを与えるほかない。といっても、男戦士得意の必殺唐竹割を受けても回復したのだ。あれも通常であれば、絶命の一撃。
「――さすがは一つ角の
「弱気になるなティト。チャンスはある」
「しかし、鬼は首を刎ね飛ばしても、その首だけで生きていると聞いたぞ――電マ!!」
「ぐぉあああぁああっ!!」
男戦士とドワーフがフロントで戦い、死角に回り込んだヨシヲが得意の雷魔法で敵の攻撃の手を止める。なかなか、急増チームにしては息の合った連携なのは、彼らが高レベルの技能を持つ、冒険者たちだからだろう。
しかしながら足りない。
鬼を追い詰めるのにあと一手が足りない。
この赤い鬼を、押し留めて、仕留めるだけの力が、圧倒的に足りていなかった。
どれだけ剣をふるってその身を裂こうと、切った先から再生していく、突いてすぐに塞がっていく。喉元を引き裂こうにも木の幹のように野太く、また、それ以外の急所についても同様なこの鬼は、まさしく不死身の化け物であった。
「これではこちらの体力、あるいは魔力が先に底をつくな」
「だから弱気になってんじゃねえ、ヨシヲ!! ティト、もう一度、お前の必殺技だ。横から狙って首を跳ね飛ばせ、んでもって、飛んだ首を俺が捕まえる」
「ドエルフスキー!! しかし、お前!!」
「ドワーフの体はこういう時のために丈夫にできてんだよ!!」
今のままでは消耗戦、先にこちらの体力が尽きるのは目に見えている。
ドワーフ男の作戦は仕方のないものだった。
問題点はヨシヲが言ったとおりだ。首を刎ね飛ばしても、鬼は動き続けるという。その攻撃を受けて、ドワーフ男の体が耐えられるのか。
そして、もう一つ。
絶命の際に鬼たちがかける呪い――鬼族の呪いを受けはしないか。
目から怨念を込めて発せられるその呪い。抱え、抑え込むなどすれば、ふとした拍子にその呪いを受けてしまうかもしれない。
男戦士がわき腹を抑えた。
「しかし」
「選べる状況じゃねえだろ!! ティト!! こいつはこの国をぶっ潰すと宣言した!! 被害がこの城だけで終わるなんて思ってないだろう!!」
「俺たちが負ければ、こいつは街に出て、さらなる暴虐の限りを尽くす――そうなってしまっては、白百合女王国はおしまいだ!! ティト!!」
一人戸惑う男戦士と違って、ドワーフ男も、そしてヨシヲもすでに腹は決まっていた。戦士たちは、己が何をなすべきか、どうするべきかを即座に判断する。
男戦士もまた、自分が何をなすべきか、ドワーフ男の選択がどれほど理に適っているのか、よく理解していた。
しかし、それでも、手が止まってしまったのは――。
「ナァニ、モメテンダヨォ!!」
跳躍、男戦士たちのやり取りの一瞬の間をついて、赤鬼が彼らとの間合いを詰めた。
まるでそれ一つが、一匹の暴れ竜であるような大きな腕が男戦士の頭上から振り下ろされず。すかさず横へとかわした男戦士だったが、城の大理石の床にはまた、大きな穴が出来上がった。
いよいよまともな足場も少なくなってきている。
状況は悪化の一途だ。これ以上の戦闘の長期化は、男戦士たちにとって不利にしかなならない。決めるならば今しかないだろう。
「オニハオニデモ、ヒトツツノハベッカクダロウ!! サッサトアキラメテ、シニニナァ!!」
「黙れ、死ぬのは貴様だ――紅色の悪鬼め!!」
再び風を巻き起こして大きく跳躍した男戦士。
高く、赤鬼の頭を軽々と超えて、謁見の間の天井近くまで跳躍した彼。先ほどと違い、さらに威力をつけるために、天井に向かって風を打ち当てると、落下速度とエルフソードが巻き起こす風の力を込めて、鬼の首を狙った。
緑色をした風の刃。その切っ先が赤い鬼の首筋へと伸びる――。
「バカカァッ!! ニドモツウジルカヨォッ!!」
赤鬼が男戦士の方に向かって腕を振り上げた。
鬼と化す前は、エルフソードが巻き起こす風により封じることの容易かったその体だが、肥大化し、戒めを外したその体にとってはそよ風にも等しかった。
思わぬ反撃。
自由落下の単純軌道、重力に任せて落ちてくる男戦士に向かって、岩石のような拳が迫りくる。
「「ティトぉっ!!」」
すかさずエルフソードの腹を向けて防御の体勢をとった男戦士だが、盾をも砕く鬼の力である。伝説の装備であるエルフソードこそなんともなかったが、彼の体は大きく跳ね上がり、先ほど彼が跳躍した天井へと逆に弾き飛ばされた。
天井に大きなへこみを作り、そこから落下してくる男戦士。その体めがけて、赤い鬼が突進してくる。
「ダメだ――ブルスク!!」
「オセエヨォッ!!」
再び、大きな岩石のような拳が男戦士の体を穿つ。積み上がり出来上がったがれきの山の中へと、その体を打ち付けられて彼の体が消えていく。
再び仲間たちの男戦士の名を呼ぶ声が城へと木霊した――。
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