第164話 どエルフさんとサドオババさま

【前回のあらすじ】


 男戦士とヨシヲは死んだ。オババのセクシーパンツをとセクシーブラジャーを身に着けたがために死んでしまった。

 身に着ける前に、確認しよう、下着の持ち主(犯罪です)。


◇ ◇ ◇ ◇


 かくして、男戦士とヨシヲは沈黙し、その体から呪われたセクシー下着は取り外された。

 脅威は取り除かれた、はずなのだが――女エルフ、および、王女の胸の中に渦巻いているのは、妙にいごこちの悪い感覚だった。


「まったく、人様のセクシィー下着を白日の下にさらそうなどと、言語道断。これですから人間の男――いえ、オスというのは信用できませんわ」


「母上、なにもそんな、この世の男がすべて悪のような言い方は」


「おだまりなさい!!」


 一喝。

 彼女の登場まで場を取り仕切っていたエリザベート王女。その彼女を一言で黙らせると、カミーラ女王はぎょろりとした目を剥いた。

 おばばの形容がふさわしい、しわくちゃな目元であるが、そこには確かに人を魅了する不思議な力があるように思われた。


 女エルフたちも思わず肩をすくめる。ワンコ教授などは、そのあまりの剣幕に恐れをなして、女修道士シスターの後ろに隠れたほどであった。


 女王は、回収したセクシー下着を自分の机の上へと置くと、それをうっとりとした目で眺めながら語り始めた。


「オスというのは、消費し破壊するだけで何も生み出さない。いつだって、文明を作り出してきたのは我々女性なのです。彼らは我々を、腕力で屈服させ従属させることでしか文明を築けないのです」


「建国女王エスメラルダさまのお言葉ですね。それは、私も承知しています――しかし、男の中にも話の分かる者はいるのでは」


「おらぬ。貴方の父もそうでした。貴方は幼いころに死に別れたので知らぬでしょうが、恥知らずにもあの男は、わらわを傀儡とし、この国を牛耳ろうなどと、愚かなことを考えたのです」


「――そんな」


 ちょっと話が見えなくなってきたな、と、女エルフと女修道士シスターが顔を見合わせる。

 今のうちに、男戦士を連れて、さっさとこの城から出てしまおうか、そんなことを目くばせでやりとりしようと、女エルフが顎をしゃくる。


 こくりとうなづいた女修道士。

 ワンコ教授を連れたまま、そろりそろりと彼女が部屋の出口へと向かい、女エルフが男戦士へと近づこうとしたその時だ。


「何をしようとしているのです!!」


 女王が今度はしっかりと女エルフをにらんで叫んでいた。

 まぁ、そうは問屋がおろさないか、と、足を止める彼女。たはは、ちょっと、話が長くなるのかなと思って、などとおどけていう彼女をにらんで、女王はふんと鼻を鳴らしたのだった。


 どうやら、彼女は娘と違って、エルフが好きではないらしい。

 いや、むしろこの感じ――。


「汚らわしいエルフ娘が。なぜ私の部屋にいるのです」


 視線にこもっている感情から、そうではないかといぶかしんでいた女エルフだったが、確かめるまでもなくそっちからぼろをだした。どうやらこの女王は、エルフに対してあまりいい感情を持っていないらしい。


 親子でどうしてここまで、エルフに対する感情が違うのか――なんとも納得のいかないその反応に、女エルフは少し首を傾げたのだった。


「彼女は私の客人で――そう、お母様の部屋に闖入した賊を、倒すのを手伝っていただいたのです」


「誰に似たのでしょうね貴方のエルフ好きは――」


 まぁ、よいでしょう、そう話を区切ると、女王は倒れた男戦士を一瞥して言った。


「下着一つで女も国も、自由にできると思った愚か者たち。ちまたを騒がしているレジスタンスも、また、国の男たちにも思い知らせるよい機会です。この者たちを処刑しなさい」


「えぇっ!?」


「パンツ一枚で磔にしたのち、火であぶり殺すのです――そう、魔女狩りならぬ間男狩りですね。ふふふっ、面白いではありませんか」


 高らかに笑うカミーラ女王。

 その表情の冷たさに、女エルフたちは思わず息を呑んだ。


 パンツ一丁で火あぶりの刑にする、こんなこと、普通の人間ならば思いつかない。

 この女王は何かがおかしい、そう、女エルフの直感が告げていた。


 彼女の背後にそっと、再び部屋の出口から戻ってきた女修道士が近づく。


「どうやら、面倒なことになってしまいましたね」


「えぇ、そうみたいね」


「どうします、モーラさん」


「しばらく様子を見ましょう。今、下手に動いても、ティトの命が危ないわ。磔にされてから、タイミングを見てティトを救うのよ」


「けど、それだと、パンツ一丁で磔にされて、社会的にティトさんが死ぬことに」


「――まぁ、それは、一度くらいアイツも痛い目見た方がいいのよ」


 恐ろしいくらいに、女エルフの顔も冷徹だった。

 日ごろの恨みという奴である。こればっかりは仕方ない。


「も、もしかして、パンツ一丁で磔にされた、ティトさんを見たいとか。いけませんモーラさん、それはちょっと、エッチ過ぎますよ」


「そうだけど、あんたが思っている方向性ではないわ」

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