第163話 ど戦士さんと女王陛下

【前回のあらすじ】


 呪われたスケベパンツとスケベブラジャーを装備した男戦士とヨシヲ。


「URYYYYYYYY!!!」


「フォオオオオオオオオ!!!」


 なさけない。

 二人は混乱してしまった。


◇ ◇ ◇ ◇


 混乱しているとはいっても、かたや戦士技能レベル7の化け物。かたや雷魔法を極めた男である。そんな二人を制圧するのは困難を極めた。


「こらっ、ティト、大人しくしなさい!!」


「フガーッ、フゴフゴ、フンガーッ!!」


「変態ですわぁっ!! ブラジャーをそんな仮面のように被って――変態っ、アブノーマル、女性の敵ぃっ!!」


「モガーッ、モゴモゴ、モモンガ―ッ!!」


 理性がないので、攻撃が分かりやすいのが救いである。なんにせよ、男戦士たちの猛り狂った攻撃を避けに避けて、女エルフは気絶スタンの魔法を彼らにくらわすことに成功したのだった。


「――きゅぅ」


「まったく、何をしとるのだ、このアホどもは」


「下着があったら身に付けたい、その男心は分からないでもないですが、もうすこし強く自制心を持っていただきたいものですね」


「いや、そういう問題でもないでしょ」


 男がパンツを被ることに妙に理解のある女修道士シスター。まぁ、彼女の言動がアレなのは放っておいて、女エルフはさっそく男戦士へと近づくと、その顔からパンツをはがそうと試みたのだった。


 しかし、取れない。


【デロデロデロデロデンデデデデン】


【コノソウビハノロワレテイルタメハズセマセン】


 むなしく、アイテム妖精が囁くのに、はぁとため息を吐く。

 この手の呪いのアイテムは、装備してしまったが最後、それを装備したものが、死ぬかあるいはより強力な解呪魔法でもかけない限りには外れない。


「一度死んでもらって、そこから復活魔法で回復してもらおうかしら」


「復活魔法の成功率をなんだとおもってるんですか」


「じゃぁ、コーネリア、解呪魔法できるの?」


「うっ――それは、スタンダードなものはできますが、この下着にかけられているのはちょっと特殊といいますか。魔法のレベルが高くって」


 呪いをかけた魔法使いと、それを解呪する魔法使い。その魔法技能(あるいは聖職者技能)の差が、解呪の成功率に大きな影響を与えてくる。


 おそらく、このセクシーパンツとセクシーブラジャーを造った魔法使いは、相当に高レベルの魔法技能を持っていたと思われる。

 女修道士もなんだかんだで、聖職者技能は高いのだが、それでも解呪をためらうレベルなのだ。


「教会に連れて行って、司祭様にお願いした方が確実ですね」


「この、パンツとブラジャーを頭にかぶったアホ二人を、白日のもとに晒すと」


「いい気味ですわ!! 市中引き回しの上で磔にして、そのあと正気に戻させて後悔させてあげますの!!」


 意気込む第一王女に対して、冷淡な目を女修道士に向ける女エルフ。

 流石に、それが一番妥当な線だとは思うのだが、あんまりにかわいそうなことは、彼女も自覚していたのだ。


 なんとかしてあげられないものか。そう思ったその時だ。


「ほほほ、どうしたのかえ、何やら騒がしい」


「――母上!?」


「貴族たちとの会食から帰って来てみれば、なにやら城が大変なことになっているではありませんか。何があったのですかエリザベート」


 凛として、それでいて厳かな雰囲気を言葉の節々に感じさせつつ、廊下の向こうから響いて来るその声。

 それはこの国の主にして、この部屋の主。


 白百合女王国の女王――その人の声であった。


 よほどしつけの厳しい母親なのだろうか。第一王女は即座にその場に傅くとうやうやしい態度を取った。対して、海賊らしいというか、船長はまったくいつもの素振りである。


 いったいどんな人がくるのかしら、と、女エルフが息をのむ。


「よもや、巷で噂になっている、女王国に牙を剥くレジスタンス。そやつらの侵入を許したのではありませんね」


「いいえ、その、母上。これはちょっとした油断といいますか、タイミングが悪かったといいますか」


「幼い頃から言い聞かせているでしょう。男なぞ、我々にとっては家畜のようなもの。労働力と種さえ搾取すればいいだけのものです。情けなどかけても無意味なのですよ」


「はっ、それは母上、私も承知していますが――」


「ではなぜこのような事態になるのですか。貴方が手心を加えているからではないのですか。もっと厳しく取り締まりなさい、なんのために貴方に警察権を与えたと思っているのです」


 随分とサディスティックな方なのですね。

 エリザベートに聞こえないように、そっと女修道士が女エルフに耳打ちする。


 みたいね、と、彼女もまた小声で合わせる。


 男たちによるレジスタンスが出来上がったのも納得というか、一理あるように感じられるもの言いである。男にせよ女にせよ、人間が、もののように扱われていい道理などこの世にある訳がない。


 ある訳がないのだが。


「アォウ!! アオアオウォウオウアオアオアー!!」


「モゴォ!! モゴゴモゴモゴ!! モゴモモモ!!」


「うわぁ、びっくりした!?」


「なぜティトさんもリーダーさんも突然元気に」


 世の中には、そういうサディスティックな、根っからの女王様に昂奮してしまう、そういう人種が居るのだ。

 こういうのがご褒美だと感じてしまう、奴らが少なからずいるのだ。


 そして、男戦士もヨシヲもどうやら、その気があるらしかった。


 哀れ、男たちのためにと立ち上がった二人であったが、そのあまりにカリスマ溢れる女王様の声の前に、呪いの効果も相まって彼らは屈服してしまったのだ。

 荒縄に縛られた身を悶えさせて、床を這いずり回って扉の方へと向かう男戦士たち。


 パンティとブラジャーに遮られて、こごもってしまった彼らの言葉を直訳するとこうだ。


「女王様、どうぞいやしい私めを、踏んでください」


 混乱もここまでくるといっそ芸術である。

 しかして、その汚らしい豚の鳴き声は、女王の登場と共に止まった。


 理由は明白である。


「はぁーっ、まったく、疲れましたわ。この歳で、貴族連中の相手をするのはこたえるわねぇ」


「母上、ご公務、お疲れ様です」


 扉の向こうから姿を現した女王――それは、ババア以外のなにものでもなかったからだ。


【人物 カミーラ女王: 御年86歳の白百合女王国の女王。58歳にしてエリザベートを産むという、色んな意味での女傑。なお、旦那とは二十年前に死別している】


「「おばっ、おぼ、おばばばぁっ!!!」」


 いろんなものを顔面中から吐き出してその場に倒れる、男戦士とヨシヲ。

 図らずとも、二人は精神的に死んだ。


 どんなにそれがセクシーでも、おばばのパンティとブラッジャーであっては、男は死ぬのだ。死んでしまうのだ――。

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