第161話 ど戦士さんと呪われた下着

【前回のあらすじ】


 セクシーパンツを求めて女王の部屋へと忍び込んだ男戦士とヨシヲ。

 パン気を感じたのは部屋の石像が抱える壺の中。しかし、その石像は動く魔法がかけられたものだった――。


◇ ◇ ◇ ◇


「くらえ、バイスラッシュ!!」


「――――!!」


 胸元を隠していた左腕を男戦士が一刀の下に切り落としてみせた。残念、これでは石像のあられもない胸がみえてしまう。

 咄嗟に壺を持ったまま、右腕で胸を隠したのが命取りであった。


「こちらを忘れて貰っては困るぞ――イナディン!!」


【魔法 イナディン: 単体の雷魔法。だいたい電験二種くらいでMAX扱える電圧量による攻撃。相手は即死する】


 雷魔法が動く石像へと浴びせかかる。


 しかし――悲しいかな相手は石像である。雷攻撃はあまり効かなかった。

 けろりとした顔で、裸婦像が胸元を隠しながらヨシヲを睨む。


「ブルー・ディスティニー!!」


「すまん、相性が悪い!!」


「他に攻撃魔法は使えないのか!?」


「雷魔法にスキルを全振りしているんだ、申しわけないがティト、俺にはお前に声援を送ることしかできない!!」


 その腰に差している剣はなんなんだ、と、指摘する男戦士。

 残念、ヨシヲが差しているそれは、ただの飾り。彼自身も満足に使うことができないしろものである。

 二刀流なんて、そんな簡単にできるとおもったら大間違いなのだ。


 ちなみにヨシヲ。魔法技能はそこそこ高いが、戦士技能はレベル1と素人に毛の生えた程度であった。


「えぇい、しかし、もはや胸を隠すために腕を使ったお前に勝ち目などなし。覚悟しろ動く石像!!」


「――!!」


 とどめの横なぎの一閃が入る。隠している胸元から引き裂き砕かれた石像は、上半身をずるりとその場に落とすと動かなくなったのだった。

 流石の戦士技能レベル7の男戦士である。

 岩を切るなどなんということはないという感じであった。


 剣を鞘へと納めて一息を吐く男戦士。

 その背中にブラボーと、惜しみのない拍手がヨシヲから送られた。


「やるな、ティト。流石は俺が仲間に誘っただけはある男だ」


「やるなではない。これくらいできなくてどうする。スキルはもっと、バランスよく割り振るものだぞヨシヲ」


「ふっ、雷魔法さえ使えれば、俺はいいのだ。なぜなら、雷魔法とは勇者――物語の主人公の魔法だからな」


「まぁいい。それより、この壺の中にそれはあるのか」


 ごろり転がる石像が持ち上げていた壺。

 像と同じく、白色をしたそれは、確かに中にモノが入れられるよう、中身がくりぬかれている。本当に壺として使えそうだ。


 間違いないと、ヨシヲが近づいてそれを手に取る。

 唾を飲み込んで彼はそこに手を突っ込むと――中から真黒な下着を取り出した。


【ティロリロリン ヨシヲハ『スケベナシタギ(ジョセイヨウ)』ヲ テニイレタ】


「アイテム妖精が囁いている」


「あぁ、間違いなく、これが目的の、女王が使っているスケベ下着だ――まったく、真黒な上にスケスケだなんて、なんてけしからんのだ!! けしからん!!」


 詳しい描写は、パンツの知識がないので、省略いたしますが、それは大層スケベで、見ているこっちがなんだか恥ずかしくなるようなものであった。


 これを女王は夜な夜な着けて、いったい何をしているのだろうか。

 想像が頭を過ると、つい男戦士たちは前のめりになってしまう。

 誰も装備していないというのに、ただそこに存在するだけで、そのスケベな下着は、男たちをどぎまぎとさせる威力があった。


【アイテム スケベな下着: そりゃもうどえらいドスケベな奴ですよ。ガーターとかと組み合わせると破壊力抜群ですよ。あとあれですね、パンストなんかもいいですね。純白もいいけど、こういう黒くてスケスケのも最高、もう、たまらん】


「たしかに、これをこの国の国民に見せれば、なんてものを着けているんだと、大きな問題になるだろう」


「基本的な人権として、スケベな下着を着る自由はある。しかし、女王はそれを男たちから奪っている」


「そうなのか?」


「あぁ、俺達、白百合女王国の男たちは、白ブリーフしか着用をすることを許されていないんだ」


「なんてことだ。そんなの、長いこと使っていたら、大変なことになるじゃないか」


「前だけならまだいい。しかし後ろもと考えると――身震いが止まらない。とにかく、そんな風に男たちを苦しめておいて、自分だけ下着の自由を謳歌するなんてそんなのは許されない。これで、絶対に女王の治世を覆してみせる」


 そう言いながらも、ブルー・ディスティニー・ヨシヲの顔はパンツに近づいていく。

 近い、あまりに近い。


 若い男が、セクシーなパンティを握り締めている、それだけでもなんというか、犯罪的な絵面だというのに。さらになんというか犯罪臭がすごい。

 加えて、ヨシヲの目は血走っている。


「ふはっ、そうだ――これを民衆の前に晒す前に俺が装備すれば」


 これは何かがおかしい。

 すぐに男戦士がヨシヲの手を叩いた。


「ダメだヨシヲ!! それをやったら、お前は変態になってしまう!!」


「くぅっ!! 何をする、ティト!!」


「どうやらそのパンティ、ただのパンティではない。おそらく、何かしらの魔法がかけられていると見た」


「そんな馬鹿な、そのような魔力反応は――」


「鑑定できる人間が誰かいればいいのだが」


 と、ここで男戦士の頭を過ったのは、女エルフだ。

 豊富な知識に加えて、エロ関連については男戦士も一目置いている彼女である。


 女エルフに頼めば、何かこの下着について分かるかもしれない。

 それでなくてもワンコ教授がいる。女修道士シスターもその手の呪いについては知識を持っていることだろう。ここはひとつ、パーティに合流するのがよいのではないだろうか。


 しかし――。


「ブルー・ディスティニー・ヨシヲ。俺の知り合いに、魔法道具について詳しい人間が居る。その人間に、それを預けることはできないだろうか」


「――それは信頼できる男なのか」


 男たちのために立ち上がったヨシヲ。

 彼が、女エルフたちの協力を受けるとは、とても思えない。


 弱ったな、と、男戦士はその場で頭を掻いた。


「むぅ、しかし、見れば見るほど、なんだか悶々とした気分になってくる、魔性のアイテムだな」


「あぁ、魔性のスケベパンツだ」


「こんなの着けて迫られたら、ちょっと、たまらんだろうな」


「あぁ、たまらん」


「たまらん」


 しかし、そんな愁いは五秒で消えた。

 残念なことに、この時すでに、男戦士も、ヨシヲも、パンツの呪いにかかっていたのであった。

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