第154話 どエルフさんと第一王女さま
【前回のあらすじ】
男戦士、逮捕される。
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女装していたことが露見し、また、女エルフの格好をして興奮していたことが露見した男エルフは、女王国の女騎士たちによってひっとらえられてしまった。
かくして見苦しく喚き散らし逃れようとする男戦士を、生温かい目で見送った女エルフたち。
しかしながら、一応、あんなど変態野郎でも、彼らのパーティのリーダーである。
「流石に放っておくわけにはいかないわよね」
「ツンデレですねモーラさん。わかります」
「わかるんだぞ」
「わかんないで欲しいなぁ、いや、ホント」
かくして女エルフを臨時リーダーとして、冷静に状況を見つめ直した男戦士ご一行。かかる事情について――男戦士の変態性について特に入念に――船長に説明すると、これまた意外にも彼女は納得してくれた。
「いや、そんな。まさかそこまで業の深い人間が居るとは――」
「変態なのは間違いないけれど、悪い奴ではないのよ、アイツ」
「それはなんともすまないことをした」
「いや、全然あやまることじゃないわ。私だって事情を知らなければそうする。貴方は人間として実に正しい反応をした、それは間違いないわ」
慰めでもなく気遣いでもなく、それはエルフの本心だった。
その上で、どうか今回の一件について、誤解であったと一緒に証言してくれないかと、女エルフは船長に頼んだ。
これでもかというくらいチョロい――もとい頼りがいのある姉御っぷりの船長だ。
もちろん返事はまかせろの一択しかなかった。
「この国の見回りの女騎士に連れて行かれたなら、城の牢屋へと入れられているだろう。城に直談判に行こう」
「うへぇ、なんだかちょっと大事になって来たわね」
「小さい国ですから、司法と政治が一緒になっているのでしょう。仕方ないことかもしれませんが、お城に向うとなるとちょっと緊張しますね」
「だぞ。お城なんて、僕は壊れたところしか行ったことないんだぞ」
船長の口から出てきた思いがけないその話に、男戦士一行が湧きたった。
かくして船長を先頭にして女エルフたちは、白百合女王国の中央にある王城へと足を運ぶことになったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
「――うはぁ」
「――近くで見ると、これはまた」
「だぞ。でっかくて立派なお城なんだぞ」
白亜の石を積み上げて、造り上げられた荘厳な城。
それを前にして女エルフたちがため息をついた。
道中、ガラの悪い男たちに絡まれるでもなく、また、スリに会うでもなく、何事もなく無事に城へとたどり着いた男戦士一行あらため女エルフ一行。
私掠船免許などの話で出入りしているのか、慣れた感じで船長が城の衛兵に話しかける。すぐに許可はおりる――かと思われたのだが。
「すみません。今回の一件、うちの姫様がどうしても許せないと言って聞かなくて」
「許せない?」
「というか、姫様というのは? いったいなんなのでしょうか?」
船長と共にこちらにやって来て説明をしたのは城の衛兵だ。
彼女もまた、例にもれず女騎士である。流石の女王国、城の兵まで女で揃えるとはその心意気には感服するばかりだ。
まぁ、それはともかく。
「姫様――第一王女エリザベートさまは、女王様から委任されて、この国の警察権を握っておられるお方なのです」
「ほうほう」
「そのエリザベートさまが、今回の一件にどう関係が?」
「同時にその、エリザベート様には、困った性癖がありましてですね」
「困った性癖?」
きょとんとした顔をする女エルフたち。
自分が仕える主君のことである、その悪口とも取れるような話の内容を、そうやすやすと口にできるものではない。
いい澱んだ衛兵に変わって話を引き継いだのは、双方の事情をよく知り、また、この国の住人ではない海賊団の船長であった。
「エリザベート王女はさ、アンタみたいなのが好きなんだよ、女エルフさん」
「私みたいなの?」
その両耳を引っ張ってみせる仕草をする船長。
なるほど、流石に察しの悪い女エルフも、そんな特徴的なジェスチャーを取られれば、流石に事情を把握した。
つまるところエリザベート王女は、誰かさんと同じで『エルフが好き』ということである。
「同じエルフ好きとして、そのようなエルフを侮辱する行為は断じて許せない。女性の格好をするのさえ憚れるというのに――極刑だ死刑だと息巻いておるのです」
「なんと」
「とんとん拍子に進む話ですね」
「だぞぉ。ティト、殺されちゃうんだぞぉ?」
そんなことさせないわ、と、女エルフが息巻く。
直接話をさせてくれないかしら。そう、彼女は衛兵に切り出すと、ティトの助命について王女に直談判をすることを提案した。
なんと言っても、エルフ好きの王女である。そのエルフが自ら会いたいと言って、断らない訳がない。女エルフはもちろんその辺りのことを計算しての提案であった。
「とりあえず、エリザベートさまにお話してきます」
そう言って、城の中へと駆けこんでいく衛兵。
白銀のチェインメイルで飾られた背中を見送って、ふんす、と、女エルフは鼻から荒い息を吐きだしたのだった。
「いやはや、ティトさんのために身体を張りますね、モーラさん」
「当然じゃないのよ。あんなのでも、一応、うちらのリーダーでしょ。それに、こんなしょうもない理由で死なれたら、こっちも寝覚めが悪いじゃない」
「ツンデレなんだぞ」
「ツンデレですね」
「だからそんなんじゃないっての!! もうっ!!」
ぷいす、と、女修道士たちから顔を背ける女エルフ。
そんなコミカルなやり取りをしながらも、彼女の心中は決して穏やかではない。今頃、牢屋に鎖でつながれているであろう、男戦士に対する心配がじくじくと渦巻いているのだった。
まぁ、なんといっても、彼女がいい気味だと見送ったからなったこの結果である。
多少なりとも気に病んでしまうのは仕方ない。
「無事でいてね、ティト――」
そう祈るように呟いて、女エルフはそっと目を閉じたのだった。
と、そんな彼女を、なんだか不満げに女修道士が見つめて一言。
「ところでモーラさん、お姫様はもしかしてはじめてお会いになりますか?」
「――コーネリア。あんたね、せっかく今回は下ネタなしで、いい感じに終わろうとしてたのに、無粋なこと言うんじゃないわよ」
「えぇっ、私の先ほどの発言に下ネタが!? そんな、無意識に発現したにも関わらず、そこから拾いあげるなんて!! 流石ですねどエルフさん、さすがです――」
あんたが言うと、なんだかいまいちキレが悪いわね。
そんな言葉を返して、女エルフは――そして女修道士も――黙り込むのだった。
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