第150話 どエルフさんと北の大エルフ
【前回の
「だから、気にしてるからいうなと言うとろうが!!」
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かくして、男戦士と店主の尻の穴に、直接火炎魔法――は、流石に危険なので、物理魔法をぶち込んだ女エルフ。
だらしない顔をして倒れるエルフ馬鹿二人。
そんな彼らに
「だぞ。話の腰が折れたけど、結局、店主はなにがしてほしいんだぞ」
「そうよ、ふざけてないで真面目に話しなさいよね。正規の依頼だったら、こっちも馴染みなんだから考えてあげなくはないわよ」
うぅっ、と、尻を抑えながら立ちあがる店主。
少女エルフたちの手前、尻から魔法を喰らって情けない顔をを見せた店主だったが、それでもなんとか凛々しい顔をすると、彼はぽつぽつと依頼について話し出した。
「まぁ、エルフ喫茶と言っても、俺も道具屋の店主しかやったことのない身だ。正直なところ、どうやって喫茶店を経営すればいいのか、また、エルフちゃんたちを扱えばいいのか皆目見当もつかない」
「そんな状況で喫茶店やろうとか言いだすだけでも、アンタやっぱり立派だわ」
馬鹿だとは思うけど、と、ちゃんと店主を貶めることを忘れない女エルフ。
とにかく、そんな訳で、アドバイザーが欲しいんだ、と、道具屋の店主は情けなさそうに鼻の頭を掻きながら言った。
アドバイザー。
と、言われても。世のなかに、エルフ喫茶なるものがないのだから、そんなアドバイスをもらうあてなどある訳もない。
「私でよければ相談には乗るけれど。けど、正直、私もあんまり世俗に詳しい訳じゃないから」
「はっはっは、モーラちゃんには最初から期待してないよ。君みたいなどエルフに監修を頼んだんじゃ、えらいことになるからね」
「ときどき分からなくなるんだけれど――いやもう最初から何も分かってないんだけれど、どエルフってどういう意味を持ってるのよ、アンタらの中で」
「もちろん、アテがない訳じゃないんだ」
北の大エルフ。
その異名くらいは知っているだろう、と、店主が女エルフを見て言った。
女エルフはもちろん、女修道士にワンコ教授、そして、尻を天に向けて突きだして倒れている男戦士の顔までもが真顔になった。
【人物 北の大エルフ:男戦士たちがいる大陸の端より更に北。氷塊の海を渡った先にあるという、永久凍土の大陸に暮らしていると言われるハイエルフ。三千年以上前から生きていると言われ、この世のありとあらゆる物事に対して、適切な助言をすることができる賢者だとされる。だが、実際に対面したことのある者は限られ、本当にいるのかどうかも定かではない】
「ちょっと待って!! 北の大陸におつかいに行けっていうの!!」
「だぞ!! 面白そうなんだぞ!!」
「思わぬ大冒険ですね。歳柄にもなく、わくわくしちゃいます」
乗り気な女修道士とワンコ教授。
何を言っているのよ、と、すぐにそんな彼女たちに食って掛かったのは、女エルフである。
世俗の知識にこそ疎いが、この世界のことについてはそれなりに、文献で見知って知っている女エルフである。店主が言い出した冒険の目的が、いかに無謀であるかを彼女はよく知っていた。
ワンコ教授が面白そうと冒険心をくすぐられたのと真逆。彼女にとって知識は、ブレーキの役目を果たしたのだった。
「氷塊の海を渡るっていうだけでもリスクが大きいわ。それに加えて、北の大エルフはその存在が本当かどうかも分からないような相手。雲を掴むような話よ」
「だぞ!! そういう、雲を掴む冒険だからこそ、価値があるんだぞモーラ!!」
「考古学者のケティはそう感じるのかもしれない。けど、冒険者の私はそうは思わないわ。そんな、上手くいくかどうかも分からない話に、ほいほいと乗れるほど冒険っていうのは楽観的にするものじゃないわ」
「けど、ここ最近は大きな仕事もありませんでしたし。たまにはこういうのも」
「コーネリアも認識が甘いのよ!! 氷塊の海には、
「それも北の大エルフと同じで伝説ではないですか――」
とにかく私はそんな軽率な冒険は反対よ、と、女エルフがそっぽを向く。
なんといってもパーティの古株である彼女の発言は大きい。
必然、のり気な女二人の視線は、パーティーのリーダーである男戦士へと向かった。
女エルフにやられた余韻にひたるよう、天に向かって尻を突き出していた彼だが、さすがにそうもしていられないかという感じに、彼は尻をさすりながら起き上がる。
すぐに彼は、女修道士とワンコ教授の視線に応えて――その首を横に振った。
「今回ばかりは、モーラさんの言う通りだ」
「ティト」
「パーティのリーダーとして、そんな軽率な冒険を認める訳にはいかない。店主、この話ばかりはいくら尊敬するアンタの話でも、受けることができない」
いつになく真剣な店主の表情に応えるように、男戦士もまたいつになく凛々しい顔と口ぶりでその話を断ってみせた。
えぇ、と、落胆する女修道士たちの一方で、よく言ったわと女エルフが満足そうに頷く。なんだかんだで、男戦士はそういうのちゃんんと考えているのよね、と、まるで自分が彼の最大の理解者であるように、彼女は腕を組んで鼻息を鳴らした。
しかし――。
「知らんのかティト。北の大エルフがなぜ、北の大エルフなのかを」
「どういうことだ?」
女エルフの耳に店主と男戦士のいやな会話のやり取りが聞こえる。
あ、これ、いつもの奴だと、止めようとした時には、もう遅かった。
「大の大は物理的な大きさの大!! 伝承によれば北の大エルフは、ビッグマグナムな特大おっぱいを持っている、大パイエルフということだ!!」
「なっ、ビッグマグナム大パイエルフだってぇっ!?」
「ほらまたそういうオチかよ!! なんとなく想像ついたわ!!」
どうだ男のロマンだろう、と、男戦士の肩を叩く店主。
パーティの女性たちのほうをふり向いた彼の瞳には、すっかりと想像のビッグマグナム特大おっぱいが宿っていた。
「みんな!! 少女エルフたちを救うためだしかたない!! おっぱいを、いや、北の大エルフを探しに出発するぞ!! 今すぐにだ!!」
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