第五章 ギルドマスター・テンシュ・イイトシシタオッサン
第141話 ど店主さんと新商品
「最近、めっきりと売り上げが落ちててよう。もう、本当、どうしようかって悩んでるんだ」
「――悩むくらいなら、畳んだほうがいいんじゃない、このお店」
ここはいつもの街の道具屋――もといエルフ装備専門店。
男戦士たちが道具の手入れに訪れると、エルフ好きの店主は常連に対してなんの遠慮もなく愚痴をこぼしたのだった。
「やはり、目玉となる商品がないのがいけないのでは?」
「話にのっからないのティト」
そんな馴染みの店主――そしてエルフ好き仲間――の困った顔を、放っておけないとアドバイスしたのは男戦士。
女エルフが止めるのも聞かず、彼は店主が座っているテーブルの前へと出ると、腕を組んで話し込みはじめた。
「やはり、エルフ装備専門店と銘打っていても、ジャンルだけで引っ張るのは無理がある。そもそも、装備の多くが一点ものだから、評判を聞いてリピーターがつくことがない。いいものを揃えても、その売り上げが一回限りで終わるため、なかなか収益に貢献しない――ということではないだろうか?」
「なるほど」
「なんでこういう時だけ饒舌になるのよ」
というかそもそも、エルフ装備専門店という、怪しい響きに疑問をもちなさいよ、と、あきれた顔でいう女エルフ。
言っても無駄ですよ、と、そっとその肩を
とまぁ、そんな貴重なエルフ娘の意見を無視して、男戦士たちの議論は進む。
「名物商品が欲しいな。エルフ族、いや、それ以外の種族にも、これはと思ってまた買いに来たくなる、そんな商品が」
「しかしよティト。おめぇ、そんな簡単に言ってくれるが、なかなか商品開発するってのは難しいんだぜ」
「それはもちろん承知で言っている。しかし、ここに居るじゃないか、力強い助っ人が――」
視線が向かったのはもちろん、女エルフである。
なんでそうなるのよ、じとりとした目でそんな彼らに反抗を試みる彼女であったが、当然エルフバカ二人にそんな訴えが通じるはずもない。
頼むと男戦士に肩を掴まれると、女エルフはまたどうしようもないという表情で、ため息をついた。
「分かった、分かったわよ。協力してあげるわよ」
「おぉ、流石はモーラさんだ」
「頼もしいぜ!! よっ、流石だな、どエルフ!! どエルフ、さすがだ!!」
「調子に乗ってると協力しないけどいいのかしら――で、なに、どうすればいいの?」
観念して男戦士たちに協力を申し出た女エルフ。
そんな彼女を前に男戦士と店主が顔を見合わせる。
「こう、あれだ、エルフが毎日使うものや、持っていると便利なモノとか、そういうものはないだろうか」
「冒険の用途に限らず、エルフが普段使いするようなものがあれば、それを教えて欲しいんだけれど」
難しい注文ねぇと、眉を顰める女エルフ。
ふむ、と首を傾げる彼女だが、意外にもすぐに彼女はその傾いた首を、もとに戻したのだった。
「別に難しい話じゃないんだけれど、
「
「エルフ族って、基本的に自然の中で生きている生き物じゃない。だから、どうしても身に着けるものもそういう植物素材のものがいい訳よ」
絹とか羊毛とかの動物由来のものは、あまり好んで着る者がいないのだという。
加えて、
「なんてことないただの
「――そんな、まったく気がつかなかった」
「――常連なのに」
しかしながら、思いがけず出てきたその的確なアドバイス。
ううむ、いけるんじゃないか、と、店主と男戦士が気炎をあげたのはしかたない。
「これなら難しい商品開発しなくっても、既存のモノや技術でいけるんじゃないか?」
「
「どうやら、お役に立てたみたいね」
これ以上アホな話に付き合わされなくて済む、と、ほっと胸を撫で下ろす調子で息を吐く女エルフ。
しかし――。
なんといっても、筋金入りのエルフバカ二人である。
話が、これで終わるはずもなかった。
「待てよ、やはり利益率が高いものの方から、重点的に作っていった方がいいな」
「布面積が小さくて、それでいて多くのエルフが使わなくてはいけないもの」
雲行きが怪しくなってきたぞ、と、女エルフが青い顔をする。
必然、次に男戦士たちの口から出てきたのは――。
「パンツ!!」
「ブラジャー!!」
ろくでもない言葉だった。
いや、確かに、理にはかなっているが。
「よし決まった!! 今日から俺の店は、エルフ専門ランジェリーショップに鞍替えするぜ!!」
「どちらも布面積が小さければ小さいほど価値の上がる商品――これはいける!!」
「いけるか!! このドスケベども!!」
まともな服を売れ。
女エルフは容赦なく杖で店主と男戦士をどついた。
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