第139話 どオークさんとワン○イトカーニバル

【前回のあらすじ】


 死んだかと思われたオークの団長。しかしながら、彼は【鬼族の呪い】と呼ばれる、不死身の能力により蘇生を果たした。

 その思いがけない復活と鬼と同様の力に、戦慄する女エルフたち。


 しかし、男戦士はそんなオーガすらも、まるで手慣れたように倒してしまうのだった。


====


「いやぁ、みなさん、本当にありがとうございました」


「みなさんが通りがかってくれなかったら、ワシらあいつらの奴隷にされるところでした」


「この御恩は一生忘れません」


 傭兵団との激戦を終えて、再び男戦士たちは最初の集落に戻って来ていた。


 彼らをねぎらうのは救われたインテリジェンスオークたちの一団。

 もとより村に住んでいた者たちに加えて、オークの傭兵団に襲われ帰る場所を失ってしまった者たちも、とりあえず彼らの村に合流することとなった。


 さながら、この森のオーク全員集合という状況である。

 そんな彼らの羨望と感謝の視線を浴びながらも、いつもの調子を崩さない男戦士。


「なに、人として、当然のことをしたまでだ」


「できた人だなぁ。なんて謙虚なんだろう」


「恩着せがましくすることも、金銭を要求することもしないだなんて」 


「英雄ってのは、こういう人のことを言うんだなァ」


 普段の彼の言動を知らないオークたちは、口々に男戦士をほめそやす。

 面白くないのは女エルフである。こんなセクハラアホアホ戦士が英雄とは、世も末だなと言いたげに、彼女はじとりとしった視線を男戦士に送ったのだった。


「あんの、ほんとに、なんでもええですから、お礼をさせてくれんでしょうか」


 そう言い出したのは、今いる村の村長と思われる老いたオークである。

 さすがに申し訳ないという感じで眉間に皺を寄せる彼、はた、と、そこで男戦士の視線が、女エルフたちと一緒に一歩離れた所にいた、男オークへと向けられた。


「実はここまで来たのは他でもない、彼についてのことなんだが――」


◇ ◇ ◇ ◇


 命の恩人である。

 何かお礼をさせてほしいとも確かに彼らは言った。


 しかし、人間、いや、オークにもできることとできないことがある。

 そして倫理的にできないこともあれば、物理的にできないこともある。


「この近くの村の若い娘オークは、全員嫁ぎ先が決まってて。申しわけないが、嫁にいける娘は残っていないだ」


 きっぱりとそう言われてしまっては仕方がない。

 男戦士、そして男オークは、村長の言葉にがっくりと肩を落としたのだった。


 幸か不幸か、森のオークが一同に会したことで、村々を周って嫁探しをする手間はなくなった。だが、結果が不首尾に終わったのには、どうにも気が重たかった。


「ふへぇ、せっかく怖い思いをして戦ったのに、とんだ骨折り損だべ」


「しかたないじゃない。旅に出た時から、それは覚悟の上でしょう」


「そうだ、このくらいのことで気落ちしてても仕方がない。先はまだまだ長いぞ、パドン」


 オークの村で一晩をあかした男戦士たち。

 身支度を整えた彼らは、村の人々に惜しまれつつそこを後にしようとしていた。


 オークの村で眠るというシチュエーションに、緊張したのか、男戦士と男オークを除いて寝不足気味なパーティメンバーたち。


「だぞ、普通に何事もなく夜があけたんだぞ」


「まぁそうよね。インテリジェンスオークの村なんだから」


「せっかく神の教えを授けてあげようと、張り切っておりましたのに。なかなか期待外れの村でしたね」


 一名、違う方向性で寝不足だった者もいるようだった。

 まぁそれはさておき。


 男戦士たちは手を振りながら、インテリジェンスオークの村から出発した。


 獣道を歩いてすぐだろうか。

 やぶの中から突然、人影が現れた。


 この森に棲んでいるオークにしては細いその体つきに、パーティの面々は見覚えがあった。


「おぉ、君は」


「世話になったな、戦士ティト。それと、その仲間たち」


 女オークである。

 近隣集落のオークたちが無事に解放されたのを確認し、彼らを村まで送り届けた彼女は、その後すぐに姿をくらましていた。


 この事件の発端になったのは、彼女が所属していた傭兵団である。

 無事を祝うその場にそぐわないと判断して、自ら身を隠したのだ。


「姿が見えないからどうしたかと思っていたが」


「野暮なこと聞かないの、ティト」


「だぞ。別に変な遠慮なんてしなくてもよかったんだぞ」


「貴方の協力があったから、特に被害もなくオークさんたちを解放することができたんですよ。もっと、堂々としていても」


「いや、私が傭兵団に所属し、彼らの集落を襲ったのは事実だ。それはどうあっても変わらない」


 ただ、それでも、一言、お前たちに礼だけは言っておきたかった。

 そう言って、女オークは男戦士に頭を下げた。


「ありがとう、これで、私は自分の暗い人生に決着をつけることができた」


「そうか」


「これからどうするつもりなの?」


「暗黒大陸には戻らない。こちらの大陸で、普通の生活というのを目指してみようと思う。冒険者をするのも悪くないが――」


 しばらくは、血を見ない仕事がしたいな、と、彼女は笑った。


 冒険者として生きていくのであれば、仲間に誘うのも悪くはないか、と、男戦士一行は考えていたのだが、その予想外の言葉に喉まで出かけた言葉が止まった。


 しかし、なんの宛もないこちらの大陸で、普通の生活というのも――。

 思わず彼らの視線がそれとなく集まる。


「それは流石に、いきなりハードル高いんじゃないの?」


「だぞ、オークは体力あるから、土木工事とかそういうので、意外となんとかやっていけるかも」


「どうにもならなくなった時のために、教会を紹介してあげておいた方がいいかもしれませんね」


「いざとなったら、誰かに嫁に貰ってもらうというのも――」


 はっ、と、男戦士たちが何かに閃く。すぐさま四人の視線は、男オークの方へと向けられた。

 だが、既にその視線が向かった先に彼の姿はなかった。

 聞こえてくるのは、反対側――女オークの居る方。


「なぁ、よかったら、しばらくオラん家に居候でもしねえか」


「――いいのか?」


「どうせ行くとこねえんだろう。街だったら仕事もなんか見つかるだろうし。それに、オークだと部屋借りるのも一苦労だべ」


「むぅ、だが、見ず知らずのお前に、そこまで頼るのは」


「見ず知らずということはねえべ。一緒に戦った仲間でねえか」


 はて、戦っただろうか、と、首を傾げる女オーク。

 その反応に、なんだべその反応と、男オークがちょっと涙目になった。


 ふむ、と頷く男戦士たち。

 どうやら、彼らが根回しするまでもなく、話はまとまりそうだった。


「こうして会ったのも何かの縁だべ。あ、勘違いしねえでくれよ、オラぁ、ただの親切心で言ってるだけで、下心とかそういうのは全然ないがらな」


「分かっている」


 いや、全然隠せていないし、全然分かってもいないだろう。

 顔を真っ赤にして否定する男オークと、涼しい顔をしてそれを流す女オークに、男戦士一同は、思わず笑わずにはいられなかった。


「という訳だぁ。ティトさん」


「分かった。しかし良いのか、依頼の内容は確か――」


「いいんだぁ。今は、オラ、これでいいんだぁ」


 嫁探しだったはずじゃ、と、言おうとした男戦士、その口を女エルフと女修道士、その足をワンコ教授が止めた。

 おかげで、男戦士は無粋な真似をするハメにならず済んだわけだが――。


「そう言えば、どういった経緯で、お前たちはこの森にやって来ていたんだ?」


 思いがけず、女オークの要らぬ興味を引いてしまった男オーク。

 彼はどうしてしどろもどろになりながら、その理由を誤魔化すことになったのだった。

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