第138話 ど戦士さんと鬼

【前回のあらすじ】


 男戦士はオークの傭兵団の団長を倒した。


 周りからの信頼が10上がった。


 男戦士は戦いをS○Xに例えて説明した。


 周りからの信頼が20下がった。


 男戦士から女エルフへの信頼がなぜか10上がった。


====


 最初に、団長オークの動きに気がついたのは、女修道士シスターだった。


「みなさん、気を付けてください!! まだ、そのオークは死んでいません!!」


 その叫び声と共に、ぐぉぉ、と、低く唸って団長オークが身体を起こした。

 どうしたことか、先ほど男戦士が貫いた胸と背中、そして太腿の傷が、みるみると回復していくではないか。


「――ば、バケモノか!?」


「ひえええっ!! なんだべ、いったいどうなってんだべ!!」


「――鬼族の呪いです!! その体躯、背中の呪痕のろいきずは間違いありません!!」


 鬼族の呪い。

 その言葉に女エルフとワンコ教授は戦慄した。


【キーワード 鬼族の呪い: 高位のオーガ族が死ぬ間際にかける呪い。自分を殺した者にオーガがその魂を憑依することで起こると言われている。呪いにかけられたものは、その身体と精神を徐々に鬼に冒されていき、最終的には殺した鬼と同じ存在に変わり果てる。治療法は存在せず、鬼と同じく呪われた者を殺害するしかない。しかしながら、呪いの副次作用として鬼の生命力も引き継がれており、呪いにかかったものを殺害せしめるのは困難を要する】


「ぐへっ、ぐへへっ!! 暗黒大陸のよぉ、南の方にはよう、鬼族が棲んでいてよう!! 俺は昔、その集落を襲ったのよ!!」


 徐々に体が再生していくオークの身体。

 いや、既にそれはオーガの身体と言ってもいいのかもしれない。


 緑色だったそれは赤く充血し、その額には二つの小ぶりな角が伸びている。

 いささか、先ほどよりも細身になっているのは、気のせいではない。


「鬼族のお嬢様だったんだろうねぇ。腰が細くて、吸い付くような肌の女だった。そいつをたっぷりたっぷり苛め抜いて、この呪いをかけさせたのさ!!」


「――ケダモノ!!」


 その呪いの性質を利用して、自らに鬼族の呪いをかける者もいる。

 どうやら、この団長オークもその口らしい。


 呪いの力により復活し、男戦士の前へと立ちふさがるオークの団長。

 その紅色の肌の上を血管がびきびきと脈打つ。


「残念だったなァ!! 流石に、鬼は相手にしたことがないだろう!! お前に勝ち目はないぜ、人間ヒューマンの戦士!!」


「――やれやれだな」


「死ねぇ!!」


 尖ったその爪が男戦士に向かって振るわれる。

 あわや、これまでかと女エルフが思ったその時。


「――オーガといっても体のつくりは人間たちと変わらない。首を落して、しばらく離しておけば、すぐに絶命する」


 既に男戦士の身体はそこにはなかった。

 オーガと化した団長、その肩に飛び乗った彼は、そのまま、股の間にその首を挟み込むと、剣をその丸太ほどある喉元へと添えた。


 いつの間に、と、叫んだオーガ

 冷たい表情を見せて、男戦士が両手剣の剣先に自分の手を添える。


「名前は教えてやれないが、一つ、いいことを教えてやろう」


「なに!?」


オーガ族には明確な強さの序列がある、角の本数がそれを現していてな」


 


 そう告げるや、男戦士は手前に、両手剣を引き込んだ。

 ずぶりずぶりと音を立てて、みるみる団長の首へとめりこんでいく鋼の剣。引きはがそうと、オーガは爪を男戦士に振るうが、彼はそのすべて軽々と避けた。

 そうするうちに、ごきり、と、骨が折れる音がする。


「それともう一つ、鬼殺しオーガ・キラーをするならば、覚えておかなければいけないことがある。死んだオーガの瞳を決して覗き込まないこと」


 オーガは目で相手を呪う。

 そう言い放つと、男戦士は胴体から離れた鬼の首を、後頭部から剣で突き刺す。そのまま地面へと投げつけると、その視線がどこにも向かわないようにした。

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