第137話 ど戦士さんと手数

【前回のあらすじ】


 ついに、傭兵団が占拠する村に攻撃をしかけた男戦士たち一行。


 現れた団長こと巨漢のオークが、裏切った女オークと男オークに迫る中、男戦士がそこに駆け付けるのだった。


====


「なんだてめぇは!!」


「お前の様な奴に名乗る名など持ち合わせていない!!」


「あん、カッコつけやがって――」


 オークの団長がハンマーを引き上げる。

 小回りの利く剣と違って、重心のコントロールが難しいそれ。いくら膂力りょりょくに優れるオークといっても、その動作がワンテンポ遅れてしまうのは仕方がない。

 その隙を、男戦士は見逃さない。


 正眼の構えからの柄に手を添えての突き。

 がら空きになっていたオークの脇腹、その肋骨の隙間にそれを通すと、赤い鮮血がオークの巨体から噴き出した。


「ぐぁっ!!」


「肺腑を貫いた。息をすればするほど痛むぞ」


 すぐさま男戦士がオークの身体から剣を抜く。力を失い、落下するハンマーを軽く交わすと、今度はオークの背後へと回る。

 次に狙うのは腰の裏――腎臓の辺りである。無防備になったその背後、背骨に沿って剣を突き入れれば、また、オークの悲鳴が村に木霊する。


「てめぇっ!? 何もんだァッ!!」


「言っただろう、名乗る名前は持ち合わせていないと」


 そもそも知ったところで、お前はもう死ぬだけだ。

 そう言い放つと、膝をついたオークの太ももを横なぎに男戦士の刃が切り裂く。


 動脈を斬られたそこから、血が勢いよく噴き出していく。

 そのままぐったりと、団長のオークは前のめりにその場に倒れると、その動きを止めたのだった。


 しんと静まり返った村の中。男戦士が血溝にたまった血を掃う。

 まさかここまで一方的とはと、驚いた表情を見せたのは女オークだ。

 彼女と男オークの視線を受けて、男戦士はにっと笑ってみせた。


「まさか、ここまで体格差をものともしないとは」


「戦闘において大切なのは体格じゃない。常に冷静な精神と戦闘を継続できるタフネス――そして手数の多さだ。いかに有効な戦術を備えているかが、決定打になる」


「筋肉おバカのあんたが言っても、なーんも説得力なんてないけれどね」


 男戦士に追いついた女エルフがこつりと杖でその頭を叩く。

 おうおう、ばしっとやってくれちゃって、と、倒れた団長オークを眺めながら、女エルフは自分のことでもないというのに、なんだか自慢げに笑うのだった。


「まさか、本当に勝ってしまうとは」


「なによ信じていなかったの?」


「いや、半信半疑という所だった。だが、凄いな、その男戦士は」


 女エルフ、女オーク、男オークの視線が男戦士に集まる。

 人間の身にして、その倍の体格はあるオークを、ものともせず倒してみせた彼に対して、三人は、一時だけ尊敬の念を抱いたのだった。


 そう、一時だけ。


「モーラさん、理解できないからってそういう言い方はないんじゃないだろうか」


「へ?」


「確かに君は戦士スキルを持っていない。だから、俺の言うことがいまひとつピンと来ないのだろう。つまりだな、君の分かりやすい話に例えるとだ」


「いやいや、そういうことじゃなくってね」


「ちん○んが大きくても、○倫だったとしても、正常○しかできなくては飽きてしまうだろう。四十八手と言ってだな、様々な技を駆使することにより――」


「待て待てまてーい、なんの話じゃーい!!」


 ちょっとよいこには聞かせられないお話をいきなり始める男戦士。

 君が分からないと言ったからだろう、と、なぜかキレ気味に言う彼。


 すぐさま、女エルフたちの視線は、いつもの通り、男戦士を憐れむようなじっとりとしたものに変わったのだった。


「戦いもS○Xも、大事なのはテクニック。いかに手数が多いかが大切なんだ」


「分かった、もう分かったから。いい加減黙りなさい」


「故に、手数という点において、俺はモーラさん君のことを尊敬しているんだ」


「なんでそういう話になる」


「尽きることなきエロネタと性知識、どん欲なまでのセクハラの数々。手を変え品を変え、そこまでできるのはまさしく天賦てんぷの才と言っていいだろう。流石だなどエルフさん、さすがだ」


「いらんわそんな天賦の才!!」


 べしり、と、また、女エルフが男戦士の頭を杖で叩く。


 その時だ――。


 もそり、と、死んだはずの団長オークの身体が、微かに動いたのは。

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