第127話 どエルフさんと美オークさん

【前回のあらすじ】


 シコりん屁をすかすの巻。


====


 咄嗟に、背後に気配を感じて、半歩横に避けた男戦士。

 狙いは正確。もし、あと数秒反応が遅れていたならば、男戦士の頭には、ぶっすりと地面に突然生えた矢が、刺さっていたことだろう。


「皆、木の裏に隠れろ!!」


 オークの集団に声が聞こえるのも構わず男戦士は叫んだ。


 弓使いが居る。

 それは、村のオークから聞いていた情報だった。

 しかしながらここに至るまで、男戦士たちがすっかりと失念していたことだった。


 まさか、そいつに自分たちの動きが掴まれているとは――。


 すぐに木の裏に隠れた男戦士たち。それを威嚇するように、また、矢が彼らの横の獣道――その土を跳ね上げて刺さる。

 男戦士の叫び声が聞こえたのだろうか、何人かのオークたちが、男戦士たちの居る方に向かって駆けてくるのが見えた。


「参ったわね。ティト、ここは一旦撤退して――」

「ティトさん!?」


 隣の木の陰にいる男戦士に話しかけた女エルフの言葉が止まり、女修道士シスターが絶叫する。剣を杖にして、木にもたれかかる男戦士。しかしその顔色は真っ青だった。


 頬にうっすらと走っているのは切り傷。

 おそらく、弓矢をよけきれなかったのだろう。


「すまない。どうやら、矢に毒が盛られていたようだ」

「そんな!!」

「モーラさん、コーネリアさん。みんなを連れて、村へと引き返すんだ。ここは俺が命に代えても食い止める」


 馬鹿言わないでよ、と、女エルフが怒鳴る。

 よほど強い毒なのだろう、男戦士の息はすでにあがりきり、その焦点すらあっていない、そんな状態である。


 この状態で、まともに人間が戦える訳がない。

 ここに置いて行けば、彼が死ぬのは誰が見てもあきらかだった。


「私が魔法で食い止めるわ。そのうちに、ティトを後方へ。コーネリア、解毒の魔法は使えるわよね」

「回復魔法より時間はかかりますが、なんとか」

「お願いするわ」

「ンガァ!! だったら、オラが、戦士さんの代わりに戦うだ!! 戦士さん、剣をお借りするべ」


 勇んで男戦士の剣を手に取り道の前へと飛び出したオーク。

 ダメよ、と、止めようとしたその時だ――。


 彼の前に緑色の肌をした細身の――そして金髪の短い髪を生やした女オークが現れたのは。


 オークだてらに美しい体躯をしたその女オーク。

 男女を問わず、ずんぐりむっくりとした筋肉質な体形の多いオークだが、彼女の身体はなぜかそうではなく、普通の人間――いやそれ以上に、整ったプロポーションをしていた。

 特徴的なのは頭に金色の髪が生えていること。

 そして、少しだけ尖っている耳の先。


 おそらく純粋なオークではないことが、女エルフには直感で分かった。

 エルフの血が混ざっている――。


 背中には弓、おそらく、ティトを狙撃したのはその女だろう。

 彼女は、一瞬でオークのみぞおちに拳を突き入れると、彼を気絶させる。そしてそのまま、手にしていたナイフを彼の首に突き立てたのだった。


「動くな。動けば、このオークの命はないぞ」

「――なっ、なんなのよ、アンタ」

「聞こえなかったのか? 動くな、と、私は言ったんだ。このアンタたちのお仲間が、どうなっても構わないのか――」


 ナイフの刃がオークの頸動脈にあたる。

 あと少し、力をこめれば、それは簡単に彼の皮膚を引き裂いてしまうだろう。


 動けない。万事きゅうすである。


「まずは武器を捨てろエルフの女よ。その杖を、地面に放れ」

「分かった、分かったわよ、言う通りにする。だから、その人と、そこに倒れている私のパートナーを助けてくれる」


 女エルフはあきらめて、手にしていた杖をその場に放り出す。

 ふん、と、その女オークはその整った鼻を鳴らすと、脱力した男オークの身体をその場におろした。

 しかし――。 


「あきらめろ。その矢に塗っておいたのは、解毒魔法の効かないキイロマダラヘビの毒だ。その男はもうどうやっても助からない」

「――なっ、なんですって!?」

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