第128話 どエルフさんとパイフラッシュ

【前回のあらすじ】


 尾行に失敗し、オーク部隊の強襲を受けた男戦士たち。

 矢に塗られていた毒により、男戦士は倒れてしまうのだった。


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【モンスター キイロマダラヘビ: 南の海を越えた所にある島国、その林に生息している蛇。毒性が非常に強く、オークでも毒に触れただけで即死する。一般的な解毒魔法(食中毒を治すセイローガン、神経毒を治すパワー・オブ・ウコン)が通じないため、治療はほぼ不可能である】


「掠っただけで致命傷だ。運の悪い男だな」


「嘘でしょ――ティトッ!!」


 回復不能の毒に冒されたと聞いて、女エルフがあきらかにうろたえる。

 すぐさま、彼女は男戦士に駆け寄ろうとしたが――その間に、女オークが素早く動いて割って入った。


 サディスティックな微笑みを浮かべて、彼女は女エルフを蹴り倒す。

 尻もちをついて倒れた彼女に、女修道士シスターがすかさず駆け寄った。


「ふん、この男は、お前の恋人か何かか?」


「――だったら、なんだっていうのよ!!」


「随分気楽な冒険者稼業だと思ってな。カップルが道楽でやれるほど、この仕事は甘くない」


「まさかあんた、同業者なの?」


 答える義理はないね、と、笑う女オーク。

 そんな彼女の背後に武装オークの集団が集まっていた。


 いよいよ持って、こうなるともう手詰まりだ。


 屈強なオークたちが、にやにやと、女エルフと女修道士を見つめている。

 握り締めるのは斧やハンマーと言った、大きく凶悪な武器たち。


 彼らはどうや、野生のオークとは違って、それなりの知性を持ち合わせているようだった。

 しかしながらどうにもそれは、眼の前で伸びている純朴な都会オークの彼と違って、荒っぽいもののようだった。


 種族的に、恵まれた体躯たいくをしたオークである。

 彼らの多くは男戦士たちと同じように、冒険稼業についているものが多い。


 そして、人間の冒険者もまたそうであるように、こういう荒事に従事するものたちの中には性質タチの悪い輩が、多かれ少なかれいるものである。


 どうやらこのオークたちの一団は、そんな性質たちの悪い輩たちの集まりのようである。

 女エルフはそう直感した。


 まずいわね、彼女の身体が震える。

 その手を心ぼそく握ったのは、女修道士であった


「どうしましょう、モーラさん――」


「コーネリア。一つ、作戦があるの」


「なんです?」


「【ギリモザ】を使ってくれない。あの光は、オークたちの目くらましになるはずよ。そのすきに、貴方はケティを連れて逃げて」


「モーラさんは?」


 この場で戦えるのは、自分しかいない。

 決まっているでしょうと、彼女は小声で女修道士に向かって言った。


「気づかれないように、自然な素振りでね」


「――分かりました」


 ニタニタとしたオークの男が女エルフたちに迫る。

 それに応えるように、女修道士は立ち上がった。


 自らの上着の裾に手をかけて、ゆっくりと持ち上げていく女修道士。

 ひゅぅ、と、オークたちの間から口笛が飛んだ。状況を察して、自らそういう行動に出るとは、と、彼らとしても驚いたのだろう。


 まさかそれが、反撃の一手だとは思いもよらずに。


「――とくと味わいなさい。これが、スキル【ギリモザ】です!!」


 突如、まばゆい閃光が森の中に差し込んだかと思うと、オークたちの目を焼いた。

 女修道士のたわわなそれの先を、隠すように強烈な閃光があたりを包む。


「なっ!! 貴様、なんだこれは!!」


「清く美しいものの胸にだけ宿るという神秘の力です!!」


「くそっ、どこに居る」


 徐々に徐々に、その光が収まっていく。

 ようやく視界が元に戻れば、すっかりと、そこには女修道士とワンコ教授の姿がなくなっていた。


「――チッ、逃げられたか。まぁいい」


 そう吐き捨てた女オーク。

 すぐにその視界は、男戦士が倒れている木の方へと向けられた。


 青い顔をして倒れる男戦士。

 その身体に馬乗りになった女エルフが、必死に、彼の頬に口づけしている。

 いや、違う――。


「毒を吸い出してってところか。確かに、ヘビ毒には有効な治療法だ」


 だが残念、致死量だよ。

 そうつぶやくと女オークは再びナイフを握りしめて、男戦士と女エルフが居る木の方へと近づいたのだった。

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