第126話 どエルフさんと武装オークの一団

【前回のあらすじ】


 南の国との境にある森、【騒音の森】へとたどり着いた男戦士たち。

 しかし、やってきたオークの村落は、武装したオークの群れにより襲撃を受け、灰塵と化していたのだった。


====


 女修道士の回復魔法により、すっかりと体力の回復した村のオーク。

 この辺りの地理に明るい彼に、近くの人間の村落に現状を知らせることを任せると、男戦士たちはその【オークの村落を襲った武装オーク】を追って、森の中を進んだ。


 ご丁寧に、オークたちは枝を折り、枝を掃って進行してくれていた。なので、彼らを追うのはそう男戦士たちに難しいことではなかった。

 その規模や戦闘能力については分からなかったが――。


「大丈夫なんだべ。そんな、いきなりなんの作戦もなく、武装オークを追っかけたりなんかして」

「大丈夫よ。なんといっても、こっちにはティトがついてるのよ」


 オーク100人を相手に斬り合って、涼しい顔をしている熟練の戦士。

 そんな彼が武装オークに後れをとる訳がない。


 そこに加えて、同じくらいに魔法の使える女エルフ。

 さらに、オークを返り討ちにして絶頂させる女修道士シスターまでいるのだ。

 ワンコ教授は――まぁ、置いておくとして。

 よほどのことでもない限り負ける要素はない。というのが、男戦士パーティの総意であった。


「それよりも、連れ去らわれたオークたちが心配だわ」

「やり口からその扱われ方も想像できる。おそらく、武装オークたちの奴隷として使われることになるだろう。彼らの村だけならいいが――」


 ここ【騒音の森】には、他にもいくつか小さなインテリジェンスオークの集落が存在している。それらのオークが既に、彼らの手に落ちているとも限らない。


 人間ではないとはいっても、彼らもこの大陸に暮らす者たちである。

 男戦士は、持ち前の正義感から、彼らが虐げられることを放っておくことはできなかったのだ。


「止まれ!!」


 ふと、男戦士がそう言って、手を広げてその場に止まった。

 すぐ後ろを歩いていた女エルフ、そして、女修道士が足を止める。

 そんな彼女たちの後ろに、身をかがめてワンコ教授とオークが隠れる。


 男戦士たちの視界の先には、剣や槍、スレッジハンマーなどを担いだ、オークたちの一団の姿があった。

 その前には、手を荒縄で縛られて、歩かされている非武装のオークたち。


 幸いにも、彼らはどうやら、男戦士たちに気がついていないらしかった。


「――どうする、ティト?」

「不意打ちをかけるには絶好のチャンスだ。だが、彼らが、あれですべてとは限らない。できれば集落まで後をつけたいところだな」


 どう思う、と、男戦士が仲間に問う。

 女エルフは考えるまでもなく、彼の意見に賛成して首を縦に振った。

 女修道士も同様だ。


 彼女たちの後ろで隠れていたオークとワンコ教授が、少し遅れて、じゃぁそれに従うんだぞ、と、声を出す。


「なに、ここまで結構な距離を歩いた。おそらく奴らの集落まで、そう遠くはないはずだ。注意していけば気づかれることはないだろう」

「頼むわよティト。ここ一番で、変なドジだけは勘弁してよ」

「なんだいモーラさん、まるで人をそんな、おっちょこちょいみたいに」


 任せてくれよ、と、言った矢先。


 ぷすぅ、と、誰かがおならを音がした。

 男戦士、女エルフ、女修道士シスターの顔が凍り付く。


 いったい誰が、こんな時に、緊張感のないことを――という訳ではない。

 オークたちに気づかれないか、と、心配したのだ。


 しかし、さすがに数十歩も離れた場所である。


「――ほっ、どうやら、聞こえてなかったみたいだな」

「やれやれ、ちょっと、肝が冷えたわよ」

「もう迷惑な人ですねぇ、いったい誰がこんなことを――」


 そう言った矢先、女修道士の後ろに隠れていた、ワンコ教授が倒れた。

 ひくひく、と、白目を剥いて、体を痙攣させた彼女。


 犬の嗅覚は人間の何百倍という話である。狗族の獣人であるワンコ教授である、直撃を喰らってしまえば、その匂いに倒れてしまうのはしかたなかった。


「――シコりん」

「――あんた、この大事な場面でなにやってるのよ」

「えっとぉ、だって、仕方ないじゃないですか。ここ最近、食糧事情がよくって、ついつい食べ過ぎてしまってぇ」


 顔を赤くして、テレテレと弁明する女修道士。

 あきれて男戦士と女エルフがため息を吐いた時だ。


「――危ない!! ティトさん!!」


 女修道士のその言葉と共に、ティトの顔の真横を矢が通り過ぎたのだった。

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