第四章 勃ち上がれティトダム!!~哀精〇編~

第125話 どエルフさんとオークの村

【前回のあらすじ】


 オークの村へと続く獣道の途中、女エルフたちが出会ったのは、瀕死の状態のオークであった。


====


 南の国との境、【騒音の森】のオークは、狩猟を得意とすることで知られている。

 彼らは、熊や鹿などの大型の動物を主な食糧とし、またその毛皮を近くの人間の集落におろして、野菜や日用品との交換をして生活している。


 勇猛果敢なその生活に対して性格は非常に穏やかで、近くの村落からの評判は良い。

 たまに人手が必要な場合には、村落間で交流があるくらいに、人間社会に上手く溶け込んでいる、良いオークの代表のような者たちだった。


 いま、そのオークの村落が灰塵と化していた。


「――ひどい」

「これはいったい、どういうことなんだ」


 木でできた家は燃え、畑は踏み荒らされ、家畜の豚たちは縊り殺されている。

 もはや村としての機能を完全に破壊されたそこには、オークの姿は一つもなく、ばちりばちりと、焼け落ちた家屋で火がくすぶっている音だけが、辺りに響いていた。


 まずは、事情を聞かないことにはわからない。

 回復魔法をかけたはいいが、緊張の糸が切れたのか気を失ってしまった村のオーク。

 その彼を、村の真ん中の広場に寝させて、男戦士たちはしばしその回復を待った。


「何者かに襲われたってこと?」

「オークが襲われることがあるんですか?」

「あるんだぞ。敵対的な亜人種族、コボルトやゴブリン、ダークエルフなんかに襲われて、略奪されることは歴史的によくあるんだぞ」


 ここ【騒音の森】は、かつては多くの亜人種が棲み、争い合ったことで知られている森だ。彼らの戦いの雄たけびが常に絶えぬことから、【騒音の森】と名付けられたくらいである。

 しかしながら、現在この森を領有している王国と、王国に友好的な亜人種たちにより、過去に森から凶暴な――王国に敵意を持つ排他的な――種族は駆逐されている。

 たまにはぐれオークどもが集落を造ることはあるが、彼らに村を破壊するほどの力があるとは思えない。


「まさか、人間がやったとかじゃないわよねぇ?」

「――可能性は否定できない。だが、ゴブリンの集落ならいざ知らず、オークの集落を倒すほどとなると、騎士団レベルの兵力が必要だ」


 そんな人数が動いているなら、それこそ、ここに来るまでに男戦士たちが遭遇していたもおかしくない。

 集落へと続く道を、大群が踏み荒らした形跡もなかった。


 となると――実に考えにくいことだが。


「やはり、他の森で暮らす亜人種から、攻撃を受けたと考えるのが妥当だろう」

「他のって」

「オークの死体が見当たらないのが気になる。おそらく、捕らえられて自分たちの集落の中に取り込んだんだろう。狂暴な野生のオーク族が彼らを狩ったのか――」


 あるいは、彼らより強い種族が攻撃を仕掛けたのか。

 なんにせよ流れ者の蛮族たちの犯行と考えて間違いない。


「だぞ!! みんな、こっちに来て欲しいんだぞ!! オークが目を覚ましそうなんだぞ!!」


 つきっきりで、倒れたオークを見ていた、ワンコ教授が声を上げる。

 すかさず村の中に散っていた男戦士たちが集まる中で、はたと、インテリジェンスオークは起き上がった。


 これはいったい、と、辺りを見回し、そして頭を抱える。

 やっぱり夢じゃなかったべか、と、物憂げな声が彼の口から漏れた。


「あんたがたが助けてくれたんだか」

「えぇ、そうよ。それよりいったい何があったの?」

「モーラさん、そう、話を急いでも」

「村のオークがさらわれてるんでしょう、事態は一刻を争うわ」


 そう言ってオークに詰め寄るエルフ。

 基本、オーク族とエルフ族は、敵対的な関係にある種族なのだが、同時に似たような生態を森の中で形成しているだけあって、思う所があるのだろう。


 力になるわ、と、オークを前に言う女エルフ。

 まっすぐに自分を見つめる、あまり良い印象のない種族の娘に、少し戸惑いながらも、村のオークはぼつぼつと事の次第を話し始めた。


「突然のことだった。村に三十人くらいの剣や斧を持った武装したオークたちが現れて。『お前たちは、今日から俺たちの村で暮らせ』って、言い出したんだ」

「武装したオークだと?」

「逆らった若い村の男が、棍棒で殴られて――オラたち、狩りはできてもオーク同士の戦いはさっぱりやったことねえから、わかんなくて」

「それでみすみすとやられてしまったわけね」


「こりゃ一大事だと思って、人間さんに助けを求めようと逃げ出したんだ。けど、どこからともなく矢が飛んできてよう」

「矢が?」


 男戦士がふと、首を傾げた。すぐそれに反応したのは女エルフだ。

 彼女も同じ気持ちなのだろう。男戦士と視線を合わせるや、うん、と頷いた。


 何を納得しているんですか、と、女修道士シスターが不思議な顔をする。

 そんな彼女に、だぞ、と、ワンコ教授が耳打ちした。


「オーク族は弓を使えるほど、指先が器用じゃないんだぞ」

「そうなんですか? それじゃぁ――」

「その武装したオークの集団、なにかきな臭いにおいがするんだぞ」


 それでなくても、武装している時点で何かがおかしい。

 野生のオークは剣も斧も持たない。せいぜい、原始的なハンマーくらいしか持たないものだ。


「臭うわね、ティト」

「あぁ、モーラさん」


 男戦士パーティの間に緊張が走る。

 どうやら嫁を探しに来て、思いがけない厄介ごとに巻き込まれてしまったみたいだ。


 ごくり、と、息をのむ女エルフ。

 その前で男戦士が真剣な顔をして森の奥をのぞき込んだ。


「参ったな」

「えぇ、参ったわね」


「このオークの村で、パンツを洗濯しようと思っていたんだが、あてが外れた――」

「違うわティト、そういう意味じゃない」

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