第124話 どエルフさんとどエルフ村

【前回のあらすじ】


 商隊の助けを借りて、無事に南の森へとたどり着いた男戦士たち一行。

 その後ろで、商隊の隊長のむなしくそして気持ち悪い叫びが、森へとこだましたのだった。


====


「さて、この森にはたしか、大きなインテリジェンスオークの集落が、一つあったはずだ」

「だぞ。ティト、オークの集落は人里離れた森の奥にあるんだぞ? どうやってそこまでたどりつくんだぞ?」

「来たは良いですけど、集落への行き方が分からない――なんてこと、ないですよね」


 じとり、と、女修道士シスターとワンコ教授の視線が男戦士に向かう。

 彼女たちが心配するのは仕方もあるまい。なんといっても、屈強な体躯をしたオークたちがひしめく村に、これから向かおうというのである。


 それでなくても深い森だ、迷ってしまえばはたして、冒険慣れした彼らでも出て来れるかどうか。


 そんな二人の不安な視線を、笑い飛ばして男戦士が言う。


「確かに彼らは人里離れた場所に住んでいる。けれども、彼らも必要に応じて、人間たちとかかわりを持ってはいるんだ」

「つまり?」

「どういうことなんだぞ?」


 どれどれ、と、男戦士があたりを見回す。

 確かこの辺りという話なんだが、と、漏らしながら道端をのぞき込む。

 木々が生い茂り、その間にも藪で満たされているそこ――。


 しかしながら、そんな代わり映えしない景色の途中に、ちょうど、人ひとりくらいが何とか通れる隙間を男戦士は見つけた。

 おそるおそるとのぞき込めば、そこには――。


「あったあった。ほら、オークが使っている獣道だ」


 そこには、茶色くなるまで踏み固められた、小さな道が森の奥へと延びていた。

 おぉ、と、女修道士たちの表情がいろめきたつ。


「まぁ、人里に出るにはどうしても街道を経由するからね。集落からそこまで出る道は、自然と整備されるから、当たり前と言えば当たり前だけど」

「お、流石はエルフの集落で暮らしていただけあって、モーラさんは分かってるね」


 当然よ、と、女エルフが何でもない風に言う。

 実際、オークと同じように、エルフたちの集落も、近くの街道まで獣道を使っている。そのため、女エルフは二人と違って特に動揺していなかったのだ。


 ほへぇ、と、感心した顔をするのはとうのオーク。


「田舎の方のオークは、こっただことして暮らしてるだか」

「あれ? 田舎の方にくるのも初めてなの?」

「んだ。オラぁ、生まれてこの方、あの街から出たことねがったから」

「よく覚えておくといい。今度里帰りするとき、苦労しないようにな」


 さぁいこう、と、男戦士が藪の中へと足を踏み入れる。

 女エルフがさっさとそれに続き、顔を見合わしてから女修道士とワンコ教授が。隊列の最後尾に、オークがつけて一行は森の奥にある集落へと歩きだした。


「しかしまぁ、こうしてオークの集落を訪れるのは俺も初めてなんだがな」

「そうなの? 手慣れてる感じだから、何度か行ったことあるのかと思ってたわ」

「いや、手慣れたというかなんというか――」


 男戦士が恥ずかしそうに頭をかく。

 そうして、ちらりちらりと、女エルフの顔を見ては、頬を赤らめて視線を逸らす。


 いつになく気持ちの悪いその表情に、言いたいことがあるならはっきりいいなさいよと、女エルフが辛辣な顔をした


「いや、その――この世界のどこかに、あるのかなと、思ってさ」

「なにがあるっていうのよ」

「モーラさんみたいなどエルフがいっぱい住んでいるどエルフの集落が――さ」


 女エルフの顔が固まる。

 そして男戦士の表情が、いつものそれになった。


「きっと、人里離れた女エルフばかりが暮らすその村は、男性というものに慣れていなくてだな。うっかりとそこに俺がこう迷い込んじゃったりなんかして。それで、こうぱふぱふの、もみもみの、ぷりぷりで、あはあはな、そんな感じの――」

「ないから、そんなどスケベエルフ村なんて、この世に存在しないから」


「またまたそんな。そういう村の出身なんでしょう、モーラさん」

「違うから、断じて、普通のエルフの集落だから!!」


 流石だなどエルフさん、と、いつもの決め台詞を言う男戦士。

 そんな彼らの横で、がさり、と、大きな物音がした。


「誰だ!?」


 さきほどまで、ふざけていたのもどこへやら。すぐさま剣を抜いて、その音の方へと構えた男戦士。すかさず女エルフも彼の後ろに回る。


 素早く臨戦態勢を整えた彼らの前に、藪の中から現れたのは――。


「――た、助けてくれぇ」


 ぼろぼろに傷ついたオークであった。

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