第123話 ど隊長さんと合法ほにゃらら

 かくして、男戦士たちご一行は、キャラバンの支援も受けて南の森へと到着した。


「いや、いろいろとすまなかった。助かったよビクター」

「なぁに礼には及ばねえぜ。しばらくは国境前の村で骨休ほねやすめしているから、なにかあったら声かけてくれ」

「ほんと、いろいろと親切にありがとうね、ビクター」

「貴方の献身けんしんに感謝いたします」

「んだぁ。なんも関係もないのに、ここまでしてくれて」


 別れをしむ男戦士パーティと商隊の隊長。

 と、そこに、馬車からワンコ教授が、ふぁ、とあくびをしながらやって来た。


「だぞ、ありがとうなんだぞ、ビクター」

「いやいや、君のような可憐かれんな女の子のためなら、俺はなんだってしてみせるさ」

「見た目と違って紳士しんしなんだぞ。そうだ、もし今度よかったら、うちの研究室に顔を出すんだぞ。コーヒーくらいご馳走ちそうしてやるんだぞ」


 研究室。

 聞きなれない言葉に商隊の隊長が首をかしげる。

 さっと顔色が青ざめる男戦士たちの前で、にこにこと笑って手に持った名刺を商隊の隊長へと渡すワンコ教授。


 そこに書かれている、大学教授という肩書に、彼は目をこれでもかとひんむいた。


「え、教授って? えっ、なに、これ?」

「だぞ、今はティトたちのパーティにやっかいになっているが、もともとは大学で先生してるんだぞ」


「――えっ、生徒じゃなくて?」

「だぞ!! 生徒じゃなくて、先生なんだぞ!! なんでみんな、僕が仕事の話をするとそう言うんだぞ!!」


 だってそれはどう見ても、貴方が大人には見えないから。


 言ってやりたかったが、その話をすると泥沼になることは分かっている。

 そして、この話を長く続けると、自分たちの身が危ないことを、男戦士たちは知っていた。


「――え? ちょっと待って、先生してるってことは、もしかして成人してる?」

「当たり前なんだぞ!! 子供じゃないんだぞ!!」


 ぴしり、と、場の空気に亀裂きれつが入るのを男戦士たちは感じた。

 すぐさま女エルフがワンコ教授を抱きかかえ、男戦士の背中へと乗せる。


「じゃ、じゃぁ、俺たちは先を急ぐので!! またな、ビクター!!」

「元気で!! さいなら!!」


 商隊の隊長が固まっている。

 それをいいことに、男戦士たちは一目散にキャラバンから逃げ出した。

 そして、そのまま南の森の奥深くへと入っていったのだった。


「だぞ、別れの挨拶中あいさつちゅうだったのに、なにするんだぞ」

「あれ以上話していると、怒ったビクターが何をするか分からないからな」

「まさかケティが子供じゃなかったなんて知ったら、どうなることか」

「まぁ、説明しなかった私たちが悪いんですけど」


 どうなるんだぞ、と、キョトンとした顔をして、男戦士の背中で顔をかしげるワンコ教授。

 歴史などの知識については申し分ないが、現代知識や俗っぽいことにはてんでピュアな彼女である。


 そんな彼女に、貴方は知らなくていいことよ、と、女エルフは優しい顔をして言ったのだった。


====


 一方、取り残された商隊の隊長は、男戦士たちの消えた森を見つめて、しばしたたずんでいた。


「成人している……だと!?」


 まるでお洒落しゃれな漫画みたいな台詞をいた商隊の隊長。

 そのひたいから、汗がすべり落ちて、彼ののどがごくりと鳴った。


 そう、それは、つまり。

 すっかりと男戦士たちにだまされていたということ。


 少女だと思って優しく接していた純朴じゅんぼく狗族くぞくの娘。

 しかし彼女は、なんのことはない成人した女だったのだ。


 商隊の隊長――その身体の血がたぎり、拳に力が入る。

 眉間みけんしわが寄り、そして――。


「ちくしょう!! なんてこった!! ふざけやがって!! よくも、よくも、黙っていやがったなぁっ!!」


 咆哮ほうこうが森にこだました

 怨嗟えんさの声が空へと突き抜けていく。


 それは、少女だと思っていた相手が、実は成人済みの女だったという、欺かれたことへの憤りから。


 ――ではない。


「合法ロリなら早く行ってくれよ!! 結婚を前提ぜんていに、お付き合いを申し込んでたってのおおおお!!」


 運命の相手にプロポーズしそこねた、くやしさからであった。

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