第121話 ど戦士さんと盗賊

【前回のあらすじ】


 女エルフはヌチョヌチョイボブトオカイソギンチャクが好きではなかった。


====


「すごい!! ヌチョヌチョイボブトオカイソギンチャクのぬいぐるみなんだぞ!! こんな精巧せいこうなぬいぐるみ見たことないんだぞ!!」

「ええんかーい!! 喜ぶんかーい!!」


 おもいがけず渡された、その妙にマニアックなぬいぐるみに、ワンコ教授の目がきらめく。

 その光景に、女エルフは心の底からおどろき、そしてずっこけたのであった。


 そういえば、彼女が根っからの研究者であることを忘れていた、と、女エルフ。

 うむうむ、と、男戦士だけがうなづくのだった。


 ここは交易拠点のはずれにある草原地帯。

 すっかりと日は沈み、月がこうこうと夜の空に輝いている。


 馬車をぐるりと円形に配置して壁代わりにすると、商隊の隊員たちはその中に集まってたき火を焚いていた。


 交易拠点である村から、仕入れてきた新鮮な食材が調理され振る舞われる。

 数が居るからこそできる豪勢ごうせいな食事だ。

 そんな夕食に、男戦士パーティも、商隊の隊長のはからいによってご相伴しょうばんあずかっていた。


「しかし、キャラバンの食事はすごいな。毎度こうなのか?」

「商隊によりけりだな。干し肉や豆なんかで済ますところもあれば、うちみたいに立ち拠点きょてんで材料を仕入れてしっかり食べるところもある」

「食事は冒険ぼうけんの基本よ。そりゃ、荷物の手前制限はあるけれど――質のよい食事をとってこそ、いい仕事ができるってものだわ」


 そう言って、骨付きの鳥肉をむしゃむしゃとほおばる女エルフ。

 横で女修道士シスターも、野菜のスープをすすっている。

 幸せそうな彼女たちの表情を確認して、ふと、男戦士がその場から立ち上がった。


「あら、どうしたのティト」

「まだお食事の途中だというのに」

「いやすまない。昼にちょっとつまみ食いをし過ぎたらしくてな、あまり入らないんだ。ちょっと歩いてくるよ」


 そうだったかしら、と、女エルフが怪訝けげんな顔をする。

 そんな彼女から逃げるように、男戦士はさっさと馬車の壁をえると、その視界から消えた。


 なんだったのかしら、と、首をかしげる女エルフ。


「まぁ、あいつのことだから、またしょうもないことでしょうけど」

「だぞ。きっとお腹が痛かったんだぞ」

「食事中にそういうこと言わない」

「いえ、きっと精のつきすぎるご飯を食べたから発散しに」

「はい、そこも、ちみっこの前でそういうの言わない――」


====


 男戦士は、野営地から離れて小高い丘の上へと立っていた。


 見えるのは、目下の草原で闇の中をうごめいている人影。

 隠れているつもりなのだろうが、そこは歴戦の兵である男戦士。


 月光に照らされる中かすかに揺れる草木。

 聞こえてくる小さな物音。

 彼には、闇の中をうごめく不逞の輩の動きが手に取るように分かっていた。


 と、同時に、それが分かる男がもう一人、彼の背後に迫る。


「おうおう、随分と景色のいいところで小便してるじゃないか。俺も混ぜてくれよ」

「ビクター」


 商隊の隊長である。

 彼の目もまた男戦士と同じように、闇の中をうごめく者たちの姿を捉えていた。


 ズボンも降ろさず、二人は闇の中の人影を見下ろして会話を続ける。


「人数は二十人くらいだろうか。商隊の人数の倍くらいだ」

「数で押せば勝てると思ってるんだろうね。典型的な馬鹿野盗の類だ」

「一宿一飯の礼だ、俺の方で片付けようかと思ったんだが」

「なぁに、水臭いことを言うなよ。半分でも始末してくれれば、十分だよ。それで、俺の部下もあんたの仲間も、楽しい夜が送れる」


 うなづき、そして、男戦士と商隊の隊長が闇の中へと駆けだした。

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