第120話 ど隊長さんと好きな動物

【前回のあらすじ】


 商隊キャラバンの隊長はロリコンだった。


====


「なんだよ、いるじゃんかわいい子が。最初から言えよな」

「――いや、うん、すまん」

「――さすがに会ってすぐに人の趣味しゅみがわかるほど、私たち冒険れしてないので」


 羊毛ようもうまった袋に寝転ねころがって、上機嫌じょうきげんに言う商隊の隊長。

 対して、彼の正面に座った男戦士と女エルフは顔をしかめた。


 夜もすっかりと明けて昼前というころ。

 男戦士たち三人は商隊の先頭にある馬車に乗っていた。


 昨日の夜のやりとりでは、今朝出発した拠点きょてんりる予定だった。

 だが、商隊の隊長が打って変わってどうしてもと食い下がったのだ。


 かくして、男戦士たちは彼らに同行することになったのである。


 きっかけは言うまでもなくワンコ教授だ。


「いやぁ、しかし、あんなに幼いのに冒険者だなんてなぁ。さすがは獣人」

「あぁ、うん、まぁ」


「どういう理由かはしらないけれど、あんな娘をパーティメンバーに加えてるなんて――」

「いやまぁ」

「いろいろあってねぇ」

「あんたらは立派だよ。いやぁ、感心感心」

「そう言ってもらうと、なんだか照れるわね」


「俺もできる限りの協力はするぜ」

「はぁ」

「それはどうも」

「南の森の手前までだったな。任せろ、モンスターや盗賊をケティちゃん――いや、あんたたちには指一本触れさせずに無事に送り届けてやる」


 頼もしいやらどうなのやら。


 腕を叩いて高笑いをする商隊の隊長。

 そんな彼をよそに、男戦士と女エルフは青い顔をして顔を突き合わせた。


「――どうしよう。ケティあれ、実は成人してるって言ったら、俺達○されるかな?」

「――変なこだわりのあるロリコンだったら、問題になるかも」


「――ケティの年齢のことはしばらく黙っていよう」

「――そうしましょう。ケティには悪いけれど」


 ちなみに、そんな当のケティはといえば、一つ後ろの馬車に乗っていた。


 昨日の夜からずっと馬車で眠っているのだからしかたない。

 起こすのもしのびないと、商隊の隊長が気遣きづかってくれたからよかったが。


 もし、この馬車に一緒に乗る様なことになっていたら――。


 そう思うと、男戦士たちはついつい肩をすくめたのだった。


「いやしかし楽しみだなぁ。次の拠点きょてんにつくのが待ち遠しい」

「ちなみに、南の森にはあとどれくらいでつきそうなの?」

「もう二つ拠点きょてんを経由してからだろうな」


 三日目の昼くらいにはつくと思うぜ、と、笑って言う商隊の隊長。

 それまで、ケティが成人した女獣人である、ということを悟られぬようにしなくては。


 男戦士と女エルフは目だけでそれを確認した。


 そんな中、そうだ、と、商隊の隊長が声をあげた。

 彼は背中にしていた羊毛の袋をのぞき込むと、なにやらごそごそと探り始める。


 あったあったと取り出したのは――色鮮いろあざやかなキルトであった。


「よう、リーダーさんよう、ケティちゃんの好きな動物を教えてくれよ」

「好きな動物?」

「ぬいぐるみを造ってやるからよう」


 何を言っているんだろうと男戦士も女エルフも固まる。

 すると、馬車の御者台ぎょしゃだいに座っている部下がこちらを振り向いた。


「隊長はぬいぐるみづくりが趣味なんですよ」


 と、部下の口から出てきたのは、思いがけない言葉。

 それを肯定こうていするように、へへっと、商隊の隊長は鼻の下をこすった。


「うちの商隊はこの通り、被服ひふく関係の原料を運んでいてな。まぁ、移動の間の手慰てなぐさみに、商品をちょろまかして人形を作ったりしてんのよ」

「――意外な趣味しゅみね」

「言ってくれるなよ。そりゃおまえ、俺だって博打ばくちとかしたいとこだけどさ」

「――見た目的にはそんな感じよね」

「けどよ、面子メンツ集めるのも大変だし、移動しながらできるもんでもねえだろ」


 そう言っているうちに、商隊の隊長はキルトを使って器用に人形を作っていく。

 背中の袋から羊毛を取り出してめる。

 ボタンやビーズをポケットから取り出してい付ける。

 すると、あっという間にワンコ教授の姿をした人形ができあがった。


 ほれ、と、女エルフの方に作った人形を投げる隊長。

 お店で売っていそうな見事なクオリティに、彼女は目をぱちくりとさせた。


「すごいな」

「まぁな。かれこれこの商隊をまかされてから、ずっとやってる趣味しゅみだからな」

「こんな危ない仕事やめて、街でぬいぐるみ屋でも始めたら?」

「元手がねえよ。街に入れば、酒と博打ですっちまうんだから」


 仕事はまじめでこそあるが、用心棒ようじんぼうの本質は変わらない、ということか。

 なんだかもったいない話ね、と、女エルフがぬいぐるみをひざの上に置く。


「それよりほれ、何が好きなんだよ、ケティちゃん。猫か、犬か、鳥か、熊か? それとも冒険者してるってことは、モンスターとかか?」


 変わらない商隊の隊長の問いに、男戦士は困った顔をした。


 長らく一緒に旅をしているが、ワンコ教授の趣味しゅみなどしらないからだ。

 いや、一つだけ知ってはいるが――。


遺跡いせきめぐりが好きなんて言ったら怪しまれるよな」

「どうするティト?」

「なにか、こう、無難ぶなんなのを思いつけばいいんだが。ケティが好きなものなんて、思いつかない――」


 うなる男戦士。

 しかしそこにすかさず女エルフが助け舟をだす。


「別にケティの好きなものじゃなくてもいいんじゃない?」


 と、彼女はなんでもない感じに男戦士に言ってみせた。


「女の子が全体的に好きなものとかでいいのよ」

「いや、そもそも女の子と接点せってんがないから」

「おい。私がおるやろ。コーネリアもおるやろ。おい」


 えっ、女の、えっ、という顔をする男戦士。

 人様の手前である、年齢のことについて言及げんきゅうするとさらに怒られそうなので、この場はそっと彼もあきらめた。


 しかしヒントにはなったらしい。


「なるほど、なにもケティで考えなくてもいいわけか」

「そうそう。私でも、コーネリアでも、好きなものを考えれば、だいたい大丈夫だって」

「モーラさんが好きなもの――そうか、分かった!!」


 思い出したぞ、と、商隊の隊長に言う男戦士。

 おぉ、本当かと笑顔を見せる商隊の隊長に、男戦士は一呼吸おいて答えた。


「ヌチョヌチョイボブトオカイソギンチャクだ!!」


【モンスター ヌチョヌチョイボブトオカイソギンチャク: その名前の通りのイソギンチャクモンスター。触手しょくしゅがすごくグロテスクで、『男性冒険者が選ぶ、女性が捕まると大変なことになりそうなイメージのあるモンスターランキング』、十年連続ナンバーワンに選ばれている(冒険者ギルド調べ)。ただし、グロイ見た目に反してとてもおとなしく、触手もほぼ動かないし、そもそも人をつかまえるようなことがないという、夢と男心ばかりがふくれるモンスター】


「なんでそんなの好きだと思ったのよ、どういうこと!?」

「いや、だって、モーラさんならきっと、ヌチョヌチョイボブトオカイソギンチャクとか好きそうだなって」

「好きじゃないわよ!! というか見たこともないわよ!!」


「次点でミニピンクシビレクラゲも考えたんだ。けれど、やはりヌチョヌチョイボブトオカイソギンチャクでないと、満足できないだろうなって。流石だなどエルフさん、さすがだ」

「なにが流石なのよ!! どっちも知らないわよ、そんなモンスター!!」


 はたして、いつもの暴走を発揮した男戦士に、女エルフがキレる。

 その横で怒涛どとうのスピードでキルトをあみあげると、商隊の隊長はそれを完成させた。


「できたぞ!!」

「早い!! そして卑猥ひわい!! こんなん好きな女の子なんておるかーい!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る