第119話 どワンコさんとど紳士さん

【前回のあらすじ】


 なんとか商隊を捕まえた男戦士たち一行。しかしながら、同行のきびしい条件と、女エルフの色仕掛いろじかけの失敗により、やむなく次の拠点きょてんりることになるのだった。


====


 キャラバンは次の拠点きょてん――谷にある小さな集落しゅうらくへと到着とうちゃくした。

 日はすっかりと暮れてあたりに光はない。


 集落しゅうらくの入口に馬車を止めると、勝手知かってしったるなんとやらという感じに、彼らは夜営やえいを開始する。

 そんな中、男戦士たちは馬車からろされると、さぁ、どこへなりとも行くがいいと、髭面ひげづらの隊長に言われたのだった。


「こっからだと南の森は遠いだろうな。だいたい、一週間くらいかかるだろうか」

「やむを得ない。もとより、ダメならそうするつもりだったんだ」

「そういや最近はこの街道かいどう物騒ぶっそうでな、追剥おいはぎやら通り魔とおりまやら、いろいろと穏便おんびんじゃない話をよく耳にするな」

「ちょっと、それ、今言う話じゃないでしょ」


 そういう精神的なゆさぶりをかけてくるのは、なにも性格が悪いからではない。

 髭面ひげづらの隊長は彼なりに、男戦士パーティ一行の実力を買っていたのだ。


 なんとかしてキャラバンに残ってもらいたい。

 とまぁ、そういう思惑おもわくの表れである。


 しかしながら彼らも冒険稼業ぼうけんかぎょうで食っているものたちだ。

 割の合わない仕事には手を出せない。

 彼らにひっついて、南国をえていくくらいならば、まだ、野盗たちのリスクを承知しょうちで、単独で向かうほうが利益りえきが高かった。


 と、そんなところに。


「ティトさん、モーラさん。どうでしたか、お話はまとまりましたか?」


 やって来たのは女修道士シスターである。

 その、神に仕える身にしてはありあまる、しっかりとした胸を揺らして、彼女は男戦士たちの方へと歩いてくる。


 すぐさま、男戦士のつるつるの脳が、つるりと光った。


「コーネリアさん。すまないが、ひとつ、頼まれてくれないか」


 女修道士に色仕掛けをさせる。

 なんと背徳的はいとくてき作戦さくせんだろうか。


 もしこの男戦士の所業しょぎょうを、彼女が所属している教会に知られれば、ともすると恐ろしいことになるかもしれない。

 というかそもそも女修道士が怒るかもしれない。

 そんなリスクを負ってでも、男戦士は彼女にそれをたずねた。


「――しかたないですね。おっぱいにおしりは代えられませんし」

「おぉ、流石はシコりん!! どこぞのエルフさんと違って、理解も胸もある!!」

「おい、どこのエルフが理解も胸もないって?」


 とまぁ、そんなお約束のやり取りを交えつつ、女修道士シスターが今度は色仕掛いろじかけを髭面ひげづらの隊長へと仕掛しかけた。

 が、しかし。


「悪いんだけどタイプじゃないんだわ。胸があればいいってもんじゃないよな」


 玉砕ぎょくさい

 せっかく頼みましたのに、くすん、と、しょげる女修道士シスターの肩を、女エルフが今日ばかりは優しくでる結果となったのであった。


「――おかしい。エルフにも、シコりんのおっぱいにも反応しないなんて。いったい、あの隊長の性的嗜好せいてきしこうはどうなっているんだ」

「お前の思考しこうのほうこそどうなってるのよ」

「これはもう仕方ありませんね。頑張って、歩いて南の森まで行きましょうか」

「んがぁ。みなさん、申しわけねえだ。オラのために――」


 オークまで馬車の外に出てくると、今後の方針について話し合う。

 ふと、その時だ。


「――あれ? そういえば、ケティの姿がないけれど」


 女エルフがふと、ワンコ教授の不在に気がついた。


「あぁ、ケティさんなら。馬車の振動しんどう心地ここちよかったのか、道中で寝てしまってそのままですね――」


 そんな言葉にあわせるように、もっそりとワンコ教授が馬車の荷台から出てくる。

 ぼっさぼっさの頭に、ぶかぶかの白衣、小さなしっぽとれ気味の犬耳をぴょこぴょこと動かした彼女は、ふぁ、と、のんきなあくびをかました。


 まったく緊張感きんちょうかんがないんだから、などと言いつつ、ワンコ教授のほほえましいそのしぐさに、一同の表情が緩む。

 その横で、きらりと、何やら髭面ひげづらの隊長の目が光った。


 それはもう観測可能かんそくかのうなレベルで。


「なっ!? なによあれは!?」

「まさかあれは!! 伝説の!!」

「あぁ、経験豊富けいけんほうふ冒険者ぼうけんしゃだけが、レベルに関係なくることができるという――究極きゅうきょくのスキル!!」


【スキル 見守る眼: 若いパーティーメンバーのとんちんかんな行動や、今一手が足らない行動を、あたたかい心と慈しみのこころで見守るという一種のさとりの境地きょうち。YES! ロリ○ン! DON’T! タッチ! 見守り続けることこそ、少女若いパーティーメンバーたちに向けられるべき真実の愛。そしてそれこそ真の紳士ジェントルマンの道――】


「だぞぉ、ここ、どこなんだぞぉ。もう、森についたのかだぞぉ」

「はっはっは、お嬢ちゃん、ここはまだ森に向かう途中の集落さ」

「だぞ? おっさん、誰なんだぞ?」

「俺の名はビクター。このキャラバンの隊長にして、この大陸の宝である少女たちの味方。安心してくれハニバニ。この俺が、このたくましいうでちかって、君を目的地――南の森へと送りとどけようじゃないか」


 さっきと言っていることがまったく違っている。


 さきほどまでの色仕掛けはなんだったのか、と、女エルフと女修道士が肩を落とす。

 そんな中、ひとり合点がいったという感じに、男戦士は手を叩いたのだった。


「なるほど、ロリ○ンだからモーラさんにもシコりんにも反応しなかったのか」

「わざわざ言わなくてもいいのよ、そういうことは――」

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