第112話 ど女修道士さんとどオークさん

「いやぁ、しかし、今回の依頼は割とすんなり終わったな」

「けどけど、ビッグベアー怖かったんだぞ。食べられるかとおもったんだぞ」

「まさか素手でティトが取っ組み合いしだした時にはびっくりしたけど――さすがコーネリア、頼りになるわね」

「いやぁ、それほどでも」


 やんややんやと言いながら、男戦士ご一行が街へと帰還する。

 今回、ギルドから依頼されたのは、山岳地帯さんがくちたいの村に出没しゅつぼつするという、ビッグベアーなるモンスターの討伐とうばつであった。


 普段は森の奥深おくふかくにんでいるそれが、どうしたことか山村さんそん生活圏せいかつけんまで降りてきたのでなんとかしてほしいというもの。

 村にマタギなども居るにはいるが、あまりに大きいので助けを求めたという次第である。


 この手の討伐クエストはれたものな男戦士。

 だが、今回については彼らしくないことに、油断ゆだんをして剣を落としてしまった。あわやクマの餌食えじきかと思われたその時、彼はその手をがっちりと組み合い、クマの攻撃を防いだ。


 そのすきに、女修道士シスターが後ろからクマの後ろにぶすりである。

 何をぶすりしたのかは、ご想像にお任せする。


「あのクマも、神の愛を注入されて、きっと天国で改心かいしんしていることでしょう」

「うちのパーティで二番目に攻撃力が高いのが、女修道士ってどうなのかしらね」

「だぞ」

「コーネリアさん、よかったら聖騎士せいきしとかなってみないか? 俺でよければ、剣術は教えてあげられるし、その方がきっと教会からの手当ても多くなると――」


 男戦士の申し出にふるりふるりと首を振る女修道士。


「私はあくまで神のしもべです。剣で切ったり、弓で射たり、そういうのはちょっと」

「そうか――」

「私にできるのは、神の愛を注ぐこと、それだけですから」


 いや、物理的に注ぐことはないんじゃないだろうか、と、女エルフは思ったがやめておいた。なんにせよ、それで自分たちは命を救われたのだから。


 コーネリアの神には感謝こそすれ、汚いなどと思うのはばちあたりだろう。

 まぁ、ばっちいのには変わりないが。


「しかし、このロッドも随分ずいぶん使い込みましたし、そろそろ変え時ですかね」

「今回は報酬ほうしゅうがたっぷり出ることだし、新調しんちょうしてもいいんじゃないか?」

「そうですね、今度は、もっと大きくて太い奴に――」


 そんなことを言いながら、男戦士たちは街にある冒険者ギルドの建物へとやってきた。さっそく、村人たちが預けている報奨金を受け取りに来たのだ。


 この街を拠点にしている冒険者の数が多いこともあり、そこそこの大きさのあるそこ。酒場の入り口みたいに、両開きになっている扉を押して中に入ると――。


「つべこべ言わずに、さっさと出してくれよ!! こっちも困ってるんだよ!!」


 どうしたことか、その受付の一つに立ちふさがって、なにやら怒鳴っているオークがそこに居たのだ。

 困った顔をしうつむく職員のオキツネ娘さん。

 その顔を見るや、男戦士パーティは事態じたいさっした。


 ギルド強盗ごうとうである。

 下手な銀行よりも金を持っているギルドを狙って、時々こうして、押し込み強盗がやってくることがあるのだ。


 となればやることは一つだ。


「コーネリアさん、愛注入の準備じゅんびを!!」

「わかりました!!」

「俺はあのオーク野郎の腰巻こしまきをずりおろす!! モーラさんはサポートをたのむ!!」

「わかったわ!!」

「ぼ、僕はどうしたらいいんだぞ?」

よい子ケティは目をつむってな!! いくぞ!!」


 やぁやぁやぁやぁ、と、オークに向かって突進する男戦士たち。

 あ、え、ちょっと、と、戸惑うオーク。

 その腰についていた布切れが、男戦士によりずりおろされれば、ぷりんとしたオークにしては綺麗きれいな尻があらわになる。


 そんなめくれあがったか尻に向かって、女修道士が、その野太いロッドが、迫る。


「神の愛を喰らいなさい!!」

「えっ、オァーーーッ!!!!」


 冒険者ギルドに、オーク男の断末魔だんまつまひびき渡った。

 はたしてロッドを墓標ぼひょうのようにして、その場に尻をつきだして倒れこむオーク。


 ふぅ、と、一仕事終えたという感じで、ひたいぬぐう男戦士たち。

 ひときわいい笑顔をする女修道士をかこんで、やんややんやとお互いのコンビネーションをほめたたえる彼らに、そっと、窓口のオキツネ娘が声をかけた。


「のじゃ、違うのじゃ、その人は強盗じゃなくて、お客さんなのじゃ――」

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