第103話 どエルフさんとブルースライム

 洞窟探索中。

 不意に男戦士たちの前に、ぼとりぼとりとスライムが落ちてきた。


 そこは歴戦の冒険者である男戦士。

 頭上からの気配を素早く察し、彼はそれを危なげなく避けて見せたのだった。


「この洞窟、スライムが生息しているのか」

「ここから先に進むのにちょっと気をつけなくちゃだね」

「あぁ、けど、これブルースライムだから、大丈夫なんだぞ」


 と、ワンコ教授がスライムを手に取る。

 何してるんだ、危ない、と、すぐにそれを男戦士が払う。


「大丈夫かケティ!? どこか食われていないか!?」

「だから、大丈夫なんだぞ。ブルースライムは、人間は食べないんだぞ」

「――そうなのか」


 だぞ、と、少し得意げにワンコ教授がいう。

 確かに彼が言った通り、青色をしたスライムが触れた彼の身体は、どこにもただれたような箇所はなかった。


「スライムと言っても、その食性はいろいろなんだぞ。人間や動物の肉を食べるスライムは、レッドスライムやブラックスライムだけなんだぞ」

「知らなかった」


 知ってたかと、後ろを向いてパーティーに確認をとる男戦士。

 女エルフ、そして、女修道士シスターも、静かに顔を横に振った。


 ふふん、と、どや顔でワンコ教授は続ける。


「まぁ、いろいろなんだけど、ブルースライムはカビ、グリーンスライムは植物、レッドスライムが肉食と覚えておけば、間違いないぞ」

「ブラックスライムは?」

「あれは雑食なんだぞ。なんでも食べるから、消化酵素も強烈なんだぞ。触れたらすぐ消毒しなくちゃ骨まで溶けちゃうんだぞ」

「怖い話ねぇ」


 かび臭い洞窟の中だから、ブルースライムが増殖していた、ということだろう。

 そう推測してワンコ教授。おもむろに腰に結わえていたカバンから、なにやら取り出した。それは折り畳み式のブリキ製簡易タンク。


 その注ぎ口に羊の胃袋でできた袋を取り付けると、さきほど男戦士が払ったスライムを注ぎ口から中へと押し込み始めた。


「ちょっとちょっと、なにしてるのよ、ケティ!?」

「持って帰るんだぞ。ブルースライムの消化酵素は洗浄剤として使えるんだぞ。数日絶食させて、消化酵素だけ取り出すんだぞ」

「スライムもいろいろと使い道があるんですね」

「あと、適切に処理したスライムの死体は、豊胸手術の充填剤として使われるんだぞ。おっぱいにチューってスライムを注入すると、おっぱいが大きくなるんだぞ」


 おっぱいが、大きく。

 その言葉にはっと男戦士と女修道士が女エルフを見た。


 言わなくても、彼らの考えていることは、長い付き合いの女エルフには手に取るように分かった。


「やらないからね、そんなこと。絶対に」

「いやしかし。これだけの大きさのスライムがある訳だ。これを詰めたらさすがにモーラさんも」

「一気にAAAからGカップ間違いなしですね」

「だからやらないって言ってるでしょ!! というか普通に怖いでしょ、胸にスライム詰めるって!!」


 そのとき、ぼとりぼとり、と、天井から、またブルースライムが落ちる。


「モーラさんの右おっぱいと左おっぱいが現れたぞ!!」

「さぁ、モーラさん!! 自分の力で、おっぱいを手に入れるのです!!」

「だから!! やらないって!! 言ってるでしょうが!!」

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