第102話 どエルフさんと人徳

「ちょっ――ごめん、ティト、そっちに逃げたわ!! お願い!!」

「任せろ!! 奥義、猫まっしぐら!!」


 たぁと彼が振り上げたのは、いつもの剣ではなく――緑色したねこじゃらし。


 にゃぁと飛びついたサバトラの猫。

 すぐさまそれを抱きかかえると、ふぅ、と男戦士は息を吐いた。


 とてとてと、そんな男戦士に近寄る女エルフ、女修道士シスター、ワンコ教授といういつものパーティー。

 ここは相変わらず彼らが拠点としている街の一角。

 市場からすこし離れた路地裏であった。


「てこずらせたんだぞぉ。ティト、よく捕まえたんだぞぉ」

「すばやい猫さんでしたねぇ」

「街住みにしてはてこずらせてくれたじゃないの」

「よーしよし、いい子だぞ。ほれ、ほれほれ。ふはははっ」


 猫をあやして遊ぶ男戦士。

 手慣れた感じでそれをするのは、昔猫でも飼っていたのか、それとも、こんな依頼を多くこなしてきたからか。


 今日は街の中での猫探しの依頼。

 意外とこの手の仕事が結構な金になるのは、彼らの拠点としているこの場所が、商業都市だからに他ならない。

 豪商などの館も多く、彼らが愛玩する動物たちが、時たま館から逃げ出してはギルドに捕獲依頼が行くのだ。


「猫探しがこんなに大変だとは思わなかったわ。もっと楽な仕事かと」

「そこは方法を選ばなければなんとでもなるんだがな。ケガをさせずに安全にとなると、まぁ、こういう俺たちにおいしい仕事になるんだ」

「この一匹を捕まえるだけで、一週間分のご飯が食べれるんですから、不思議なものですね」


 大事にされてるのね、あんた、と、女エルフがごろごろと猫の喉をならす。

 さきほどまで逃げ回っていたのももう忘れたのか、なぁごと間延びした声をあげて、猫は女エルフの手の中で首を回した。


「しかし、貴方がこんな妙な特技を持っているとは思わなかったわ、ティト」

「まぁこう見えて、俺は動物に好かれやすいからな」

「アホだからみんなきっと警戒しないんだぞ」


 ワンコ教授がいうと妙な説得力があるな、と、思わず男戦士も含めたその場の全員が苦笑いをする。


「まあけど、とっつきやすいところがあるのは確かよね」

「ほうほう、たとえば、どんなところですか?」


 女エルフのフォローに、女修道士が応じる。

 どんなって言われてもなぁと、少し考えて女エルフ。


「なんだろう。戦士ってもっとこう、野生じみたというか、いろいろと感情をむき出しにしているようなところがあるじゃない。それがないというか」

「なるほど――むき出しですか」


 エルフ女の言葉を受けて女修道士。

 じっ、と、彼女は男戦士を見つめた。


 しばらくして、ぽっと頬を赤らめると――何を思ったか、男戦士がおもむろに鎧を脱ぎ始めた。


「いや、ちょっと、何脱ぎだしてるのよ!!」

「むき出しとかいうから、なんか脱ぐ流れかなと思って」

「性格の話よ、性格の!!」

「性○? ははっ、そりゃもう、ずるむけさ。いやだなぁもう、こんな昼間っから、モーラさんったら」


 人のいい笑顔でさらっと怖い発言をする男戦士。

 その頭をおもいっきり女エルフははたき倒したのだった。


「性○じゃない、性格だ!! なに言ってんのよ、この色ボケ戦士!!」

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