第99話 どエルフさんと思い出話

【前回のあらすじ】


 女エルフは、男戦士との出会いについて女修道士シスターたちに語っていた。

 エルフさらいに追われて逃げ惑う女エルフだったが、森を抜けたところろにある川の前で、男戦士と偶然にも出会ったのだった。


 しかし、男戦士はその時、大切な大切な用事を足している最中であった。


====


「ヒャッハー!! 追いついたぜ、エルフちゃん!!」

「おとなしくつかまりな!! なぁに、いい旦那さまを紹介してやるからよぉ!!」

「可愛がってもらえるぜ!! 死ぬまでなぁ!!」


 森の中から、女エルフに続いてエルフさらいの連中が飛び出してくる。

 咄嗟に、その気配に気づいた女エルフは、男戦士の言葉も忘れて、彼の方へと駆け寄った。


 男戦士の顔色が、また、青くなる。


 そんな自分たちに尻を向けた男戦士に向かって、エルフさらいの人間たちは、首を傾げて舐めるような視線を送った。


「んだぁ? てめぇ、そのエルフを助けるつもりか?」

「エルフ狩りか――。くだらないことは止めるんだな」

「あぁん? いっぱしに鎧なんか着ちゃってよぉ、おめぇ、冒険者か何かか?」

「ちょっと冒険慣れしてるくらいでいい気になってんじゃねえぞ」

「こちとら、エルフどころか人間だってさらう、人さらい稼業十年選手よ」


 ナイフに、斧に、ボウガンと、各々の獲物をもって二人を睨むエルフさらいたち。

 怯えるように女エルフが男戦士の体を抱きとめる。


「あっ!! ちょっ、ダメだ、そんな、強く抱きしめたら!!」

「お願いします、助けてください!! お礼ならなんだってしてあげるから!!」

「だったら今すぐその手を放して――あっ、あっ、だめっ――」


 うあぁああっ、と、男戦士が急に叫ぶ。

 その獣のような雄たけびに、女エルフはもちろん、エルフさらいたちも目を剥いた。


 ひと呼吸おいて、それから。

 突然、男戦士は妙な鼻歌をかなではじめた。

 それはもの悲し気で、実にムーディーで、男戦士の哀愁漂う顔によく似合っていた。


【曲 滝の流れのよおに: 作詞・作曲 ティト・ティンダル】


「ちょろり、ちょろり、ちょろり、じょっ、じょばぁ!! じょろり、じょぼぼ、じょばば、じょぼじょぼりん!!」


 鼻歌が終わったと思いきや、いきなり大声で今度は歌いだす男戦士。

 女エルフとエルフさらいたちが首を傾げるなか、彼はそれを続ける。


「じょぼり、じょぼり、じょぼぼ、じょっ、じょばぁ!! じょろろ、じょろり、じょろじょろ、じょじょ、じょっ、じょっ、じょばっばっ!!」


 ふと、女エルフ。男戦士の声以外に、その歌と似たような音があたりに響いていることに気が付いた。

 いったいこれはどこから、と、視線をしばし彷徨わせる。


「じょじょばぁ、じょじょじょじょっばばっ、じょっばっ、じょじょっばぁ!! じょじょばぁ、じょじょりじょじょりん、じょじょ、じょじょじょりらじょー!!」

「ちょっと、さっきから、なんなんですか、その意味の分からない歌。それにこの音、いったいどこから」

「じょじょばぁ、じょじょっ、じょっ、じょっ、じょばぁ、じょじょ、じょろろ。ちょろり、ちょろり、ちょろろろ、ちょろり、ちょっ、ちょっ、じょじょばっ!!」


 ふと、女エルフ。

 男戦士の体に回したその腕、その男戦士の正面――川に向かった方から、温かく湿った空気が流れてくることに気が付いた。


 次いで、その鼻をくすぐるアンモニア臭。


 ちらり、と、その視線が男戦士の下半身をのぞき込むと、そこには――。


 露が滴る男戦士の立派なエクスカリバーが、そこにはむき出しになっていた。


「ひっ、ひぁあああっ!?」

「ちょっ、やめてくれ、まだちょっとタンクに残ってる感が!!」

「こんな時にいったいなにやってんですか、貴方!!」

「こんな時にやってきたのはそっちの方だろう!! だから待ってくれって、あっ、ちょっ、だめ、そんな締め付けたら――」


 うぁああぁ、と、また、絶叫をあげる男戦士。


「ちょろり、ちょろり、ちょろ。ちょろ、ちょろり、ちょろ、ちょろろ、ちょぴ、ちょっぴぴ――」


 再び始まった、二番目の歌詞は、微妙に元気がなかった。


====


「――なるほど」

「で、そのあと、そのエルフさらいは?」

「戦士レベル6の化け物が、人さらいなんかに負けると思う? 普通になます切りよ」


 しかも、二刀流という、非常に特殊な状況だったにも関わらずだ。

 と、そこは余計な情報だから、女エルフは言わなかった。


 言わなかったが。

 当然のように女修道士シスターとワンコ教授の表情は青かった。


「昔から、あんなだったんですね、ティトさん」

「そうね。旅してる間に、少しくらいはましになるかなと思ったけど。残念、おつむのほうはどうしてもレベルアップしないのよあいつ」


「だぞ。もうなんか、アップルジュース飲めなくなったんだぞ」

「私もエールとか、ちょっと飲める気分じゃないです」


 すみません、ワインとグレープジュース一つ、と、女エルフが注文する。

 だから聞くような話じゃないって言ったじゃないのよ、と、女エルフは熱いため息を吐きだしたのだった。

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