第69話 どエルフさんとクッコロ

「よくやったわティト!! 流石は私の相棒よ!!」


 試合に勝利して一息つく男戦士に駆け寄った女エルフ。

 彼女は人目もはばからずに男戦士に抱き着くと、零れ落ちんばかりの笑顔で相棒の勝利を祝福した。


 少し気恥ずかしそうに頬を掻く男戦士。

 と、その前では対照的に、女騎士が少年従士に歩み寄っていた。


 この際、戦士としての実力は語るまでもないが、二人の間には歴然とした上下関係があるのだろう。

 申し訳なさそうに表情を曇らせる少年従士。


 しかし、そんな彼に、女騎士は女エルフと同じく、屈託のない笑顔で応えるのだった。


「よい試合だったぞトット。歴戦の兵相手にここまで戦えたのだ、お前はもっと胸を張って構わないぞ」

「アレインさま」

「この敗北の味を覚えて、強くなるがいいトットよ。クッコロの数だけ、女騎士は強くなれるのだ」

「――僕は女騎士じゃないですって!! もう、これだから!!」

「ふふっ、武者修行にと参加したこの武闘大会だが、思わぬ収穫があったな」


 これまでの情けない姿から一転、大人びた対応を見せた女騎士。

 少年従士の頭を愛おし気に撫でた彼女は、ふと、男戦士と顔を合わせると、頭を静かに下げた。


「あら、なんだかんだで、礼儀はわきまえてるんだ、あの人」

「騎士といってもいろいろいるからな。お家柄もあって、世襲で騎士になる人間もいる。剣の腕が追い付かないのもしかたないさ」

「まぁ、英雄レベルの腕前持ってる誰かさんが、冒険者やってるくらいだから、そこは仕方ないか」


【テロレロレン、モーラハ、アタラシイスキルヲ、オボエタ♪】


 突然にあたりに響いたレベル妖精の声。

 レベルアップはしなかったが、先ほどの戦いで、女エルフは何かスキルを習得したらしい。


 なにかしら、と、女エルフと男戦士が耳をすます。


【スキル『クッコロ』:麻痺・憑依などの行動不能時に発動できる。使用された敵(異性限定)は興奮+混乱状態になる。身動きを封じたくらいでいい気にならないで、あっ、貴方、なにを――】


「――また、なんともしょうもないスキルを」


 おそらく、あの女騎士と一緒に、「くっ、殺せ」と言ったときに習得したのね、と、女エルフ。

 心底どうでもよさげな表情で彼女はうなだれた。


 しかし。


「すごいじゃないかモーラさん!! クッコロは、女騎士でも、一部の者しか使えない上級スキルだぞ!!」

「うへぇ、なにその食いつき」


 予想外、男戦士は女エルフが習得したスキルに思いのほか食いついてきた。


 なんというか、嫌な予感しかしないこの反応に、女エルフが追撃のため息を吐く。


「このスキルを使うには、確かな美貌と気品、そして、思わずそう言わしたくなるような、高飛車さが必要なんだ!!」

「へーはーふーん、そーなーんだー、しらなーかったーなー」

「思うに、モーラさんは女魔術師だけれども、そういう素質があったんだな。胸はないけれど」

「胸は関係ないでしょ」


 思わず握りこぶしを作った女エルフ。

 ふと、その手を止めたのは、本来のこのスキルの持ち主、と、思われる女騎士であった。


「いや、おそらくだが、そうではない。これは女騎士のクッコロとはまた別の、女エルフのクッコロだ」

「女エルフのクッコロ???」

「――なるほど!! そういうことか!!」

「いや、習得した本人を置いてきぼりにして、勝手に納得しないでくれる?」


 つまりだ、と、女騎士が咳払いする。

 ちょいなちょいなと、彼女は女エルフの横に現れたスキル妖精を呼び寄せると、静かに耳打ちした。


 しばらくして、スキル妖精がささやく。


【スキル『クッコロ』:麻痺・憑依などの行動不能時に発動できる。使用された敵(異性限定)は興奮+混乱状態になる。くっ、私を捕らえてどうしようというのだ、こんなことで祖国への忠誠は、あっ、貴様、何を――】


「とまぁ、こういう訳だな」

「――どういう訳?」


「よく見ろ、テキストフレーバーが一部違っているじゃないか!!」

「そうだぞモーラさん!! 上は、集落を襲われた女エルフ、下は戦に敗れた女騎士!! 全然違うだろう!!」

「コピペミスかと思ったわよこんなの!!」


「まったく!! 無自覚にクッコロを使いこなすとは!! 流石だなどエルフさん、さすがだ!!」

「流石とかじゃないから!!」

「ここまで見事にアイデンティティを盗まれてはな――。くっ、殺せ!!」

「あんたはそれ言いたいだけでしょう!! あぁもう、バカばっかでもう疲れるんですけどぉ!!」

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