第70話 ど女修道士さんとどワンコさん

 女騎士たちを倒し、ついに準決勝まで駒を進めた男戦士と女エルフ。

 そんな彼らを観客席から見守っていた女修道士とワンコ教授は、二人の勝利ににわかに沸き立った。


「やったんだぞ!! ついに準々決勝なんだぞ!!」

「やりましたね、ティトさん、モーラさん!!」


 試合のよく見える高めの席に座った二人は、手を取り合って仲間の勝利を喜ぶ。

 その喜びっぷりに、周りに座っていた関係のない観客も、彼らの仲間の勝利を祝福した。


 ややあって。


「しかし、これで本格的に優勝が視野に入って来たんだぞ。すごいぞ、強いぞ、ティトの奴」

「伊達に長いこと冒険者やってないですね、ティトさんも」

「というか不思議なんだぞ、なんであれだけの腕があるのに、冒険者なんてやってるんだぞ」

「そうですね。どこかの国のお抱え剣士や、将軍、それでなくても、いろいろと楽な仕事はありそうなものですのに」


 てっきり、女修道士はそこらへんの事情を知っているのかと思っていたワンコ教授は、少し驚いた顔をする。


 女修道士も彼らと一緒に旅をするようになったのは、ここ最近のことなので、そこのところをよく知らないのだ。


「あるいは、モーラさんなら、何か知っているかもしれませんが」

「なぞなんだぞ――」


 いや待てよ、と、ワンコ教授の耳がぴこりと立つ。


「もしかして、元は剣術の師範だったんだけど、弟子にセクハラしすぎて追い出されたとか」

「ティトさんならあり得なくもない話ですね」

「それか、お姫さまにいつもの調子でエッチなこと言って、国外追放されてしまったとか」

「ティトさんなら、それも考えられますね」

「鎧がない方が身軽だとかいって、全裸で戦って、それで露出狂で賞金首になっているとか」

「ティトさんだったら、言うかもしれませんね」


 うぅむ、と、ワンコ教授が唸る。

 考えれば考えるほど、男戦士が変態に思えてくるのだから、それは仕方がない。


 哀れ男戦士。普段の行いが悪すぎるばっかりに、仲間からもこの言われようである。


「考えれば考えるほど、ティトがろくでもなく思えてきたぞ」

「それでも、ティトさんにはなんというか、よく分からない魅力があるように私は感じますよ」

「――そうかな。よくわかんないんだぞ」


 ミノタウロスとクダンの件でも、結局、ティトのバカさ加減が幸いして、悲しい結果を回避することができた。

 ろくでもない奴なのは疑う余地はない。

 しかし、そのろくでもなさによって、救われている人が居るのも事実だった。


「案外、あぁいう人が、この世界をぽろっと救ってしまうのかもしれませんね」

「ぽろっと、か。ちょっと、考えられないんだぞ」


 そう言って、ワンコ教授はそばに置いてあった、ポップコーンのカップを手に取った。

 右手にいっぱい、カップの中のふわふわとしたそれを握りしめると、口の中へと押し込む。


 手に付いた塩気を、ぺろりぺろりと、小さく舌を出してなめずるワンコ教授。


 その隣で女修道士は、極太で赤々としたフランクフルトを咥えて、もぐもぐと口をうごかすのであった。


「しかし、ティトがエッチな奴だからって、僕らまでエッチなパーティだと思われるのは困るんだぞ」

「まったくですねぇ」


 エッチなのは自重してほしいんだぞ。

 そう言った、ワンコ教授たちを、周りの観客たちは、少し複雑な視線で、前のめりになって見つめるのだった。

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