第64話 どエルフさんと勇者さん
「さぁ、続きましてのエントリーは冒険者ギルドから!! 事務仕事は楽しいな、異世界へ転生してきてよかったのじゃなオキツネ娘!! ギルド受付嬢とそのおつきのサラリーマンさん!!」
「のじゃ。なんか知らんが頑張るのじゃ」
「ちょっと待て、なんだここ? 俺ら東南アジアを彷徨っていたはずじゃ――」
「細かいこと気にしたら負けなのじゃ」
男戦士の馴染みにしている冒険者ギルド。
そこで最近よく目にする、狐娘がとてとてと壇上へと上がってくる。
一緒に連れてきた男は、なんだか戦士にしては身軽な格好。あまり鍛えている様子もないので、おそらく魔法使いや筋力をあまり必要としない職業なのだろう。
幸いにも、男戦士たちの一回戦の相手である。
ギルドの受付嬢というのはやりにくいが、武闘大会である情けは無用だ。
「一回戦はなんとかなりそうだな」
「そうね」
「続いて、遠い国からやってきた女騎士とそのお供!! 騎士の名誉にかけても、無様な戦いは見せられない!! もしも負けてしまったなら――」
「くっ、殺せ!!」
「やらなくていいんですよ。ほら、ふざけてないでシャンとしてください」
続いて壇上に上がってきたのは、女騎士とその従者の少年である。
女騎士は剣、従者は槍を得物としているらしい。どちらも魔法を使う素振りが見えないが、騎士はなんといっても戦闘の専門職である。甘い相手ではないだろう。
「あの従士の少年、なかなかの手練だな」
「え? あんな可愛らしいのに?」
「下手をすると女騎士よりもあちらの方が厄介かもしれない。二回戦で当たるかもしれない相手だ、注意しておこう」
そうは見えないけれどな、と、女エルフがぼやく。
凛とした女騎士の背中を押しながら、中央へと移動した少年従士。自分よりも大きく鎧を着ている女騎士を、なんなく動かす辺り、その膂力は確かだろう。
男戦士の警戒の視線にも気づいているのか、少年は、彼らの方を振り向くと、なんだか申し訳なさそうに、そして妙にこなれた感じで苦笑いをした。
苦労性な子なのかもしれない。
その後も、何人かの男女が次々にステージへと登ってくる。
どれもこれも腕っ節の立ちそうな奴らばかりである。
これがもし、本当の武器を持っての戦いだったらと思うと、ぞっとしない。男戦士は冷や汗を拭うと、何かをごまかすように首の裏を掻いたのだった。
「さぁ、いよいよ最後の選手の登場です!! 西の国からやって来たドラゴン殺し!! 西の王国公認の勇者――アレックス!!」
勇者という触れ込みに、いっせいに場が沸き立つ。
赤い髪をした意志の強そうな顔つきの少年が壇上に上がれば、ほぼほぼ、その場に居る全員の視線が彼に注がれた。
だというのに、少年は涼し気な顔をして歩いて行く。
その背中を追うように、とてとてと、追いかけるのは彼と同じくらいの身長の娘。
珍しいことにその耳は男戦士の相棒と同じく、鋭く尖っていたのだった。
「そしてそんな勇者の介添人。西の国の霊山のふもと、月光の森に住んでいるエルフ族。その長老の娘にして、古代精霊魔術の使い手、ララちゃんだ!!」
勇者の少年と違って、おどおどとした様子で辺りを見回しながら、闘技場へと登ってくるエルフの少女。
彼女はすぐに少年の背中へと隠れると、周りの視線から逃げたのだった。
小動物のような彼女のその挙動に、いきり立った戦士たちの息が少し落ち着く。
エルフ娘の頭を撫でながら少年勇者は雑念を払うように眼を閉じた。
「勇者だって」
「あぁ。なるほど、先程の従者の少年もさるものだが、彼も相当な実力の持ち主」
「分かるのティト」
「もちろんだとも、俺を誰だと思っているんだね。ほら、アレを見てみろ――」
男戦士は勇者を指差す。
あれ、と言われても、どれのことよ、と、女エルフが首を傾げる。
どこを見ればいいのだろう、と視線を彷徨わせる彼女に、あれだよ、あれ、彼の背後に居る、と、男戦士が言った。
当然彼の背後に隠れているのはエルフの少女。
「まだ若いというのに、エルフを相棒に選ぶとは、中々に分かっている」
「――エルフ趣味の話かい!!」
「それだけじゃない。見てみろ、あの娘の胸のサイズを。まだ少女だというのに、しっかりとしたバストライン。俺と違ってエルフに妥協しないその姿勢、まさしく勇者と讃えるにふさわしい!!」
「えっ、なに、ちょっと、妥協って。おい、どういう意味だ、それ」
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