第62話 どエルフさんと暗黒騎士
「ティトさんにモーラさん。はい、登録たしかに受け付けました。明日は優勝目指してがんばってください」
二人の書かれた書類に判子を押して、にっこりと少女が笑う。
その笑顔にほっと女エルフは胸をなでおろした。
なんとか誤解も解け、こうしてふたりとも無事に武闘大会に登録できた。
モンスターと比べれば人間相手の模擬戦など程度がしれている。
後は明日に備えてゆっくりと休むだけである。
「まぁ、ティトのファイター技能があれば、十分優勝できるでしょう」
「いや世の中、上には上がいるものだからな」
「レベル7なら名人級じゃない。そんなそうそう、アンタより腕のたつやつなんて出てこないわよ――」
そう言った矢先、ふと、闘技場の扉が開いた。
後光を浴びてその扉をくぐってきたのは、背の高い黒髪の男。
病的なまでに白い肌と、深い隈をたたえたその顔。全身黒ずくめの鎧に、血で染めたような曇った色の赤マントを翻して、彼は憮然とその場に立っていた。
腰のロングソードは、黒塗りの鞘に見たことのない模様の装飾が施されている。
「ここで武闘大会の受付をしていると聞いてきた」
「あ、はい!! よかったですね、最後の一枠ですよ!! ラッキーです!!」
「ふっ、それはなんとも幸運なことだな」
男はかしりかしりと鎧を鳴らして、男戦士達の前を通り過ぎる。
まるで二人など眼中にないとばかりに彼らの間を抜けると、男は少女に差し出された用紙に名前を書き始めた。
「なによ、挨拶くらいすればいいじゃない。嫌な奴」
「いや挨拶ならもう済んだ」
「何を言っているのティト」
そう言った、男戦士のズボンがだらりと落ちる。
なんということだろうか、彼のズボンを腰に巻きつけていたベルトが、いつの間にか切断されていたのだ。
そんなことが状況的にこの場できるのは、先程横を通り過ぎた黒ずくめの男しかいない。彼がすれ違い様、見えないほどの素早さで、男戦士のベルトを切断したのだ。
にやり、と、怪しく微笑む黒ずくめの男。
「爆乳エルフ命――か」
男はあろうことか、男戦士が履いているパンツの、プリント柄を読み上げた。
どうしてこんなアホみたいな文字が書かれたパンツを履いているのだろう。
女エルフ、そして、少女は、叫ぶのも忘れて呆れ返った。
と、そんな黒ずくめの男に負けじと、男戦士が微笑みを返す。
「そういう貴様は、ロリエルフ命とは――な」
「なにっ!?」
なんということだろう。
その言葉と共に、黒ずくめの男のズボンがずるり、ずるむけたのだ。
男戦士の手には小さなナイフ。
護身用に持っているそれだが、いざという時格闘に使えないこともない。
彼はとっさにこのナイフで、黒ずくめの男の挨拶に返答したのだ。
そう、同じ方法で。
「ふふっ、見事な腕前だ」
「お前もいい趣味しているようだな」
ずるり、ずるりと、ズボンをひきずって歩み寄る二人。
お互いの技量と趣味を認めあった戦士たちは、ズボンをひき上げるのも忘れて、手を差し伸べあったのだった。
「ティトだ。魂の名前は、エルフ・パイ・メチャデッカー」
「シュラトという。魂の名は、ツルペタ・エルフ・オニーチャンスキスキー。この名を教えるのは、お前が初めてだよ、メチャデッカー」
「光栄だ、オニーチャンスキスキー」
固く握手を交わす、下半身丸出しの男二人。
「なんだこの話」
相変わらず、女二人は置いてけぼりという感じに、遠い目をしてその光景を眺めていたのだった。
そう、時に、男だけにしか伝わらない何かというものが、あるのだ。
あるのだ。
たぶん。
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