第61話 どエルフさんと特注武器

「いい、出るのは武闘大会だからね。そっちのなんかいかがわしいのには、絶対に出ないんだから」

「またまたそんなこと言って、出たい癖に」

「だから出たくないって言ってんだろ!!」


 女エルフを伴って武闘大会が開かれるという、街の闘技場へとやって来た男戦士。


 先に宿へと向かった女修道士とワンコ教授。

 二人がいないのを良いことに、ちょっと言葉尻がきつくなっているエルフ。しかし、それを意に介さずいつもの調子な男戦士。

 ため息と共にエルフ娘が闘技場の扉を開く。


 薄暗い部屋の一室には、長机の前に座っている女の子。

 まだあどけなさが残るそばかすの少女は、二人を見るなり立ち上がって、いらっしゃいませ、と、元気な声をあげた。


「明日の武闘大会に参加される方ですか」

「あぁ、そうだ」

「それはちょうどよかった。あと二枠どうしても埋まらなくって困っていたところなんですよ」

「意外と出る人少ないのね」


 ではここに名前を書いてくださいね、と、羊皮紙を二人の前に差し出す少女。

 さらりさらりと二人が名前を書けば、はい、これで登録完了です、と、陽気な声で少女は言った。

 もっとこう参加者に注意だとか、同意だとか、そういうのはとらなくていいのだろうかと、流石に不安になる二人。


「あぁ、そうだ。あくまでこれ、模擬戦による武闘大会ですので、武器は全て木製のダミーになります。一応、剣、斧、槍なんかはありますけど、特注で必要な物がありましたら、事前に言っておいてください」

「俺は剣があれば十分だ」

「私は魔法使いだから。杖があると助かるんだけど」

「ほうほう。どれくらいの大きさの杖でしょう」


 と、言われてもねぇ。説明するのも難しいわ、と、エルフが首をひねる。

 だいたいでいいと思うよ、そう、男戦士が言うと、むむむと唸りながら、彼女は手でだいたいの大きさを示した。


「そうね、長さは腕よりちょっと短い――これくらいかしら」

「ほうほう、そうしますと、太さは?」

「握りやすいように、親指よりちょっと大きいくらい」

「色と形は?」

「色? そうねぇ、可愛らしくピンク色で」

「マッサージ用にいぼいぼはつけますか?」

「いいわね!! あとついでに、肩叩きやすいように、先端が瘤になってると助かるわ――」


 って、もうそんなの杖とチガウじゃないのよ、もう、と、エルフ娘。


 冗談のつもりで女の子に話をあわせて言った彼女だったが。

 女の子と男戦士は凍りついた表情で、女エルフを見ていた。


「えっ、ちょっと、なに、その顔」


 女エルフが我に返る。

 すると、無言で女の子がメモを取っていた――やけに生々しい感じの、モーラさん特注の杖の絵を、彼女の方に向けた。


 見れば、自分が何を言っていたのか、すぐにわかった。

 だって彼女はどエルフさんだもの。


「やっ、ちょっ、違うの。これはその気がつかなくって」

「何も知らないいたいけな少女に、無知を装ってこんなもの書かせるなんて」

「だから、わざとじゃないから!! 信じてよ!!」

「私、もう、お嫁さんにいけない」

「いけるいける大丈夫だから。というか、絵、上手いのね貴方、まるで本当にそれ――じゃなかった、そうじゃなくてね」


「初対面の女の子に対しても容赦のないセクハラ。流石だなどエルフさん、さすがだ!!」

「だから違うって――もうっ!!」

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