第57話 どエルフさんと専門店

 久しぶりに拠点の街へと戻ってきた男戦士ご一行。

 街につくなり、新しいメンバーも増えたことだし、装備を充実させようかと、いつもの道具屋へと向かった彼らだったが。


「――なに、これ」

「あらあら、これはこれは」

「なんのお店なんだぞ」


 歩きなれた道をたどってやって来てみれば、そこに建っていたのは、彼らが旅立つ前とは変わり果てた建物。

 白塗りの壁に、金色の屋根、まるで瞳のように開けられた緑色の窓に、いったいなんの意味があるんだろうかと、左右に飛び出している笹型ののぼり。


 そして、でかでかと、屋根に掲げられた看板にはこう書かれていた。


「エルフ装備専門店?」


 どういう意味だこれは、と、首を傾げるパーティ一同。一人、女エルフだけが、青い顔をしてその光景を眺めていた。


 気持ちは分からないでもない。

 男戦士もやっかいだが、ここの店主も相当に厄介な人間に違いないからだ。


「どうされたんでしょうね、エルフ装備専門店なんて」

「エルフの装備なんてそんないっぱいあるとは思えないんだぞ? どうなんだぞ、モーラさん?」

「私に聞かれても困るわよ――」


 戸惑うパーティの面々。

 ふと、そんな彼らの前で、店の扉が開かれた。


「ふっ、久しぶりだな、てめえら」


 中から出てきたのは、サングラスに葉巻、そしてエルフをかたどっているのだろうか、左右にぴょんと耳が伸びた帽子を被った男。

 それは彼らがよくよく知っている、行きつけの道具屋の店主に違いなかった。


「待ちくたびれちまったぜ。俺はよぉ。はやくお前らが来ねえかって、楽しみにしてたんだぜ。これを見たら、なんていうかなって考えてさぁ」


 しかし、その態度というか口ぶりというか、なんだか思わせぶりな台詞は、彼らの知る店主のそれではなかった。


 いったい何があったのだろうか。また、エルフ娘の顔色が悪くなる。


「オヤジ、これはいったいどうしたんだ。いったいどういう意味なんだ、エルフ装備専門店って!?」

「ふふっ、ティトよ、流石は俺が見込んだエルフマニアだけはある。そこに気がつくとはやっぱりお前はそこいらのエルフ好きとは一味ちがうぜ」

「いや、そんだけでかでかと看板掲げておいたら、誰だって気になるでしょう」


 冷徹にツッコムエルフ娘。

 そんな彼女を無視して、男二人は白熱した視線を交わす。


 サングラスを取って男戦士の顔を覗き込んだ店主。ふっと、彼はニヒルに微笑むと、咥えていた葉巻を彼は手に取った。


「いい目だ。その目に応えたいと思ってよぉ、俺はちょっと頑張っちまったのよ」

「店主」

「エルフ好きが本当に納得できる、エルフ好きのためのエルフ装備。そいつを突き詰めようって、そう俺に覚悟させたのはお前だぜティト」

「俺が原因――。なんだかそれは、すまないような」

「謝ることなんかねえのさ。ただ俺が、この歳にして見たくなっちまっただけなのさ、エルフの可能性って奴をよ」


 力強い店主の流し目が男戦士へと向けられる。

 その表情に応えるように――。


「おやじ」

「ティト」


 男戦士は応えた。


 そして。


「どエルフさん」

「どエルフさん」


 二人の男の視線は、隣に立っている、女エルフへと流れたのだった。


「いや、ちょっと、なんでよ!! というか、やめてよ、そんな気色悪い視線を、こっちに向けないで!!」

「大陸中から、彼女に似合う装備をかき集めたぜ――。ふふっ、こいつぁいったいどうなることやら!!」

「一人のオヤジの人生を、ここまで狂わしてしまうとは!! まさに、魔性のエルフ!! 流石だなどエルフさん、さすがだ!!」

「知らないわよ!! その人が勝手になったんでしょ、私を巻き込まないで!!」


 ちょっとやめてと抗うエルフを連れて、男戦士と店主は店の中へと入って行ったのだった。

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