第56話 どエルフさんと豚さん

 森で年老いた妖精と遭遇したり、エルフと遭遇したりした男戦士一行。

 彼らはまだまだ森の中に居た。


 というのも、ギルドでクエストを受けていたからだ。


1ワンアップキノコ、なかなか見つかりませんね」

「どんな怪我でも治療してみせる、魔法のキノコなんだぞ。研究者の間でも、未だにその原理が解明されていないキノコ――そんなのこの森に本当にあるのかだぞ」


 あると思う、たぶん、と、濁った返事を返したのはエルフ娘。


1ワンアップキノコって、森全体の魔力の結晶なのよね。これくらい深い森だったら、どこかに一個や二個くらい生えてるものなのよ」

「森のプロフェッショナル、エルフのモーラさんが言うのだから間違いないだろう」


 そういった男戦士の頬は真っ赤に腫れていた。

 ついでにその顔には生気がなかった。


 女エルフの手も、男戦士の頬と同様に赤く腫れている。

 他人を傷つけるということは、自分も傷つくものなのだ。


「しかし、見つからないわね」

「もう既に誰かがとってったんだぞ。きっとそうだぞ」

「ううん誰でも簡単に見つけられるものでもないんだけれど。せめてねぇ、いつもの準備ができていれば」

「いつもの――? 普段はどうやって見つけてるんです、モーラさん?」


 なんだか装備が不十分という口ぶりのエルフに、女修道士シスターが尋ねる。


「キノコのにおいを覚えさせたブタを放つのよ。で、地面をかがせながら探させるっていうね」

「知ってるぞ!! 高級キノコの探し方なんだぞ!!」

「エルフはだいたい1ワンアップキノコの収集用にブタさんを飼ってるものなのよ――」


 と、言って、女エルフは男戦士の方を見た。


 男戦士の眼は虚ろ。


 いつもだったら、ここで何か言ってくるかな、と、思ったのだが、流石にちょっとやりすぎてしまったらしい。そんな気力は沸いてこないみたいだ。


「ぶたさん、飼ってるのか!! すごいんだぞ!!」

「まぁね。エルフ族にしたら、ポピュラーな家畜よ。あと鶏なんかも」

「意外と文明的なんですね。てっきり動物性のたんぱく源は、狩猟かなにかで摂取しているのかと」

「まぁ、どっちかって言うと、残飯を処理させたり、野菜の堆肥を作るためよ」


 と、言って、また、女エルフが男戦士を見る。


 男戦士は肩を落として、すっかりと気落ちしていた。


 みかねて、女エルフが声をかける。


「そんな気にすることないじゃないの。確かに、今日はきつめに怒ったけど」

「いや、俺がいけないんだ。君が傷ついていることなど考えもせず調子にのって」

「ほんとそれよね、最近調子に乗りすぎよ、あんた」


 手厳しいですね、と、そのやり取りを見つめる女修道士とワンコ教授。


 しかしながらなんだかんだで甘い女エルフ。

 ほら、もういいから、と、男戦士の肩を叩くと、顔をあげさせた。


「そんな思いつめるなんて、ティトらしくないわよ。貴方のとりえは、どんな時でも馬鹿みたいに元気なところじゃない!! ねっ!!」

「――モーラさん」

「馬鹿みたいというか、ティトは実際おば、もごもご」

「しっ、いいこと言ってるところなんだから、静かにしてあげましょう」


 ワンコ教授の口を押さえて女修道士が言う。

 ようやく瞳に光をとりもどした、男戦士が女エルフの手を握り返す。


 ありがとう。

 そう呟くと、目が覚めたように彼は笑顔を相棒パートナーへと返したのだった。


「そうだな、俺としたことが、らしくなかったな」

「そうよそれでこそ、私たちのリーダーだわ」

「すまなかった――」


 そう言って、何故か突然、男戦士がその場に四つんばいになった。


 尻を上に突き出して、ふんふん、と、鼻を鳴らすその姿に、メンバー全員が濃い顔をして固まった。


「――なにを、しているの、ティトさん?」

「君の飼っているブタがいないというのなら、いいだろう、この俺が、ブタの代わりをつとめてみせよう!!」


 ブヒンブヒン、と、鳴く男戦士。


 調子を取り戻したとたんこれだ、と、女エルフも、女修道士も、ワンコ教授も、ためいきをついたのだった。


「さぁ、女王様!! この哀れな雄ブタにご命令を!!」

「だからぁ!! どうしてあんたはそういう――もうっ!! この馬鹿!!」

「馬でも鹿でもありません!! ブタです!! ブヒィ!!」

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