第55話 どエルフさんとエルフさん

 引き続き、森の中を進む男戦士ご一行。

 その先頭を切って進むのは、森の精霊ことエルフ娘。


 獣道さえないその森を、エルフ娘はあっちそっちと身軽に飛び跳ねて、道なき道を切り開いて後続のパーティを先導する。

 それに続いて男戦士がやぶやらツルやらを払っていく。


「しかし、流石はエルフですね。こんな目印もない深い森の中を、まるで自分の庭のようにすいすいと」

「そうかしら? 目印なんてそこらへんにあるけれど」


「エルフには我々人間には見えない何かが見えているということさ。そう、たとえば服に隠れている下着とか、下着に隠れている色々なものとか」

「人の特技をスケベ目的みたいに言わないでくれるかしら――あれ?」


 エルフ娘が突然歩みを止め、近くにあった藪に身を隠した。


 唇に手を当てて、しっ、と、声を静めるように促すと、彼女は男戦士たちを見る。

 パーティの全員が、彼女の仕草に沈黙と相槌を持って返す。

 同じように藪の中へとパーティは身を隠すと、揃ってエルフ娘の視線の先を追いかけた。


 根が腐って折れたのか、蔦がびっちりと捲きついている巨大な樹が倒れている。

 そんな樹に腰掛けて、独特な鼻歌を奏でているのは、白い肌の女性。


 金色の髪の間から伸びた耳。しかしそれは、彼らを先導している森の精霊と同じく、先がとがっていた。


「おぉ、エルフだぞ」

「この森にも居たのね。全然気がつかなかったわ」

「あれが森に棲むエルフ」

「街に棲むエルフと違って、どことなく神聖さがありますね」

「悪かったわねありがたみがなくって」


 いやいや、そんなことは、と、男戦士が珍しく女エルフを擁護する。


 だが。


「うん!? うん? うぅん!?」

「ほらまた茶番が始まった」


 男戦士は仲間の女エルフと、樹の上に腰掛けているエルフ娘を見比べて、突然に目を大きく見開いた。

 交互に、隣のエルフと、離れた場所に腰掛けるエルフとを見る男戦士。


 その視線が向かうのは――胸。


 なんということだろうか。その樹に腰掛けているエルフの胸は、パーティ一の巨乳である女修道士シスターに勝るとも劣らないボリューミィさだったのだ。


「馬鹿な!? 俺の知っているエルフは、あんな魅力的な種族ではないぞ!?」

「悪かったわね魅力がなくって!!」

「まさかアレが噂に聞く、エルフの上位種族――パイエルフ!!」


 そんな男戦士の驚きに合わせるように、女修道士がいらんことを言う。

 当然、男戦士の顔はいつものように凍りついた。


「パイエルフだってぇっ!? そんな、そんな高貴な存在が、どうしてこんな森の中に!!」

「ちょっとティト、隠れているんだから静かに――」


「エルフの中のエルフ、高貴なるその姿にはいっそ感動こそ覚える。あぁ、ありがたや、ありがたや」

「拝むなぁっ!!」


「そしてこちらのどエルフさんはといえば――ご愁傷様」

「おらぁっ!! ちょっと表出ろやこのどスケベアホ戦士!! 今日という今日は許さんぞ、お前、こるぁっ!!」

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