第54話 どエルフさんともさもさ妖精

 森を行く男戦士ご一行。

 その前に、突然繁みの中から緑色した何かが飛び出してきた。


「ふぉっふぉっふぉ、私は森の妖精ポックル爺。旅人さんや道に迷われたかのう」


 全身緑、まるで小さな観賞植物のように、全身葉まみれのそれは、森の妖精ポックル爺さんである。

 可愛らしい、まるでどこぞの博覧会のイメージキャラクターにでもなりそうなモンスターだ。


火球ファイアボール!!」

「ふぉ――おぎゃぁあああっつ!!」


 しかし、そいつに向かって、エルフ娘は火炎魔法を浴びせかけた。


 えげつなく。

 容赦なく。

 ためらいもなく。


【モンスター ポックル爺:基本ボケてる森の妖精だよ。相手するだけ無駄なので会ったら燃やしてあげよう】


 ヒッという叫び声と共に、尻尾をたてるワンコ教授。

 突然現れたフレンドリーな森の妖精、そのショッキングな退場に、彼女は少なからず衝撃を受けたようだ。


「この森にも出るのねポックル爺」


 対して、眉一つ動かさずそんな台詞を吐くエルフ娘。


「ひどいんだぞ!! マスコットみたいなモンスターを!!」

「意外とあれ面倒くさいのよ。一度相手するとどこまでもついてくるし」

「そうなのか? 全然そんな風に僕には見えなかったんだぞ――」


 燃え上がるポックル爺を眺めながら、ワンコ教授は眉間に皺をよせた。


「というか、エルフがそんな簡単に木を燃やしていいのか? 自然と共に生きる一族じゃないのか?」

「いいのよいいのよ。火もほれ、自然現象の一部な訳だし。こういう


 ぴきり、と、森の空気が固まる。


 あら、嫌な予感、と、エルフが男戦士たちの方を向くと、女修道士シスターともども、神妙な顔をして彼女の方を見ていた。


「うん、なんだ、こんどは何だ? というか、新年一発目から、アンタたちってばホントにぶれないわね」


「なるほど、つまりエルフ族は、使ということか」


「無駄なものってなんだ、その含みのある言い方」


 それはもちろん、と、男戦士と女修道士が顔を見合わせる。


「――脇」 ※ 男戦士


「――胸」 ※ 女修道士 以下交互に繰り返し


「――脛」


「――腕」


「――尻」


「――鼻毛!!」


「――鼻毛!? えっ、そ、それじゃ、ま、まん」


「はい!! はい、ちょっとお待ちなさいお二人さん!! 子供が居る前で、そういうなまめかしい部位は言わない!!」 ※ どエルフ


「いったいなんの話をしているんだぞ?」 ※ ピュアピュアワンコ


 見かねて二人の言い合いに仲裁を入れる。

 勝ったという感じにはしゃぐ女修道士と、地面を叩いて悔しがる男戦士に、盛大な溜息をエルフ娘は送った。


「で、実際どうなんです?」

「燃やして処理してるのか!! そうなんだな!! そうなんだろう!! 流石だなどエルフさん、さすがだ!!」

「違うから!! 勝手にエルフ文化を捏造しないで!!」

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