第53話 どエルフさんと照り焼き鳥

 商業都市へと向かう男戦士一行。

 その道中、ギルドで受けた道すがらにできる依頼を、彼らはこなしていた。


「おぉ、あれが照り焼き鳥か。生きてるのは初めてみるんだぞ」


【モンスター 照り焼き鳥:破裂音を聞いただけでショック死する臆病な鳥。その割には繁殖力が強く個体数が多い。可食部が多く肉が美味で、主に照り焼きにして食されるためこの名がついた】


 青い顔をした不気味な顔の鳥。

 二足歩行で黒い羽毛に覆われたそれは、きょろりきょろりと辺りを見渡しながら、群れを形成して平野にたたずんでいる。


「今日の狙いは照り焼き鳥の卵だ」

「おぉ? 照り焼き鳥じゃないのか?」

「鳥自体は都市部の周辺でも捕まえられるからな」

「問題なのは個体数が増えることなのよ」


 照り焼き鳥は臆病だが繁殖力は強い。

 そのため、しばしば大量発生して、その地の食物を食い荒らすことがある。


 そこでギルドには定期的に周辺地域に棲息する照り焼き鳥を駆除する依頼が入る。

 もっとも、鳥自体を運ぶのは手間がかかるので、もっぱらその卵を回収してくるのが一般的だ。


「卵1つで100ゴールドだ。割ったあと、粉末にして計るから、卵の中身は食べてしまっても問題ない」

「食料の自給もかねた理想的な依頼よね」


 私、この依頼好きよ、と、嬉しそうに笑う女エルフ。

 その後ろで、無意味に命を奪うのは気乗りしませんが、他の動物のため、と、前口上を述べて女修道士も身構えた。


「で? 具体的に、どうやって卵を集めるんだぞ?」


 尋ねたワンコ教授にふふっと女エルフが微笑み返す。

 みていてね、と、彼女はパーティメンバーの前に出ると、妖精を使役する呪文スペルを唱えはじめた。


「大気に棲まう水の精霊たちよ、わが呼び声に応えて集まりて、この地に降り注げ」


 降雨スコール!!


 エルフ娘が呪文スペルを唱えきると、太陽は出ているというのに、辺りに雨が降りそそいだ。


【呪文 降雨スコール: 大気中の水分を集め、水滴を辺りに落とす呪文である。うっかり巻き込まれて濡れ透け注意!!】


「雨が降ると、照り焼き鳥は自分の巣へと戻る習性がある。これで、あいつらの巣を見つけるという訳だ」

「精霊系の魔法使いがいるとウハウハってわけよ」

「おぉ、すごいんだぞ!! 考えたな!!」


 うきうきとした顔で言うワンコ教授。

 しかし――。


「さぁ、あとは催眠魔法で鳥たちを眠らせて!! をゲットよ!!」


 その言葉に、ワンコ教授、男戦士、女修道士の顔が一斉に固まった。


 思わず口にしたその言葉。

 深い意味はなかったが。こいつらはそういうところを突いてくる。

 どうしてそんな言葉を選んでしまったのか。


 これは完全に、女エルフの凡ミスであった。


「いや、その、卵の意味よ、卵のタマ。深い意味はないわ」

「――なるほど、確かにタマタマをゲットしてしまえば、もう照り焼き鳥は子孫を作れないな」

「タマの管の方を除去してしまってもいけますよね」

「ざっ、残酷なんだぞ。流石にかわいそうなんだぞ」

「ほんと、なんであんたらそんな想像力豊かなのよ。尊敬するわ」


「「「流石だなどエルフさん、さすがだ」」」

「流石じゃないわよ!!」

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