第52話 どエルフさんと噂話

 街を行く男戦士の一行。

 活動拠点としている隣の商業都市へと移動するべく、彼らは近くの農家や個人商店を回って、食料や消耗品の調達を行っていた。


「次の街まではどれくらいなんだぞ」

「だいたい三日そこいらね。途中の森で野宿することになるけれど」

「久しぶりに教会に顔が出せますね」

「武器屋のおやじは元気にしているだろうか」


 ひそり、ひそり、と、声がする。

 見れば道行く人たちが男戦士達を見てなにやら噂をしている。


 なにかしら、と、首を傾げるエルフ。

 その肩を叩いたのは男戦士だった。


「噂されてるぞ、モーラさん」

「なんでよ。私じゃないかもしれないじゃない、ねぇ、コーネリア」

「まぁ、都会ならまだしも、田舎だと【どエルフ】かっこどえるふかっことじるは目立ちますからね」

【どエルフ】かっこどえるふかっことじるってなによ。種族名みたいによばないでくれる」


かっこ種族 どエルフ:エルフの中でもより痴的ちてき有閑ゆうかんな上位種族。痴識ちしき欲旺盛で、人間の風俗ふうぞくにも理解を示し、行為こういを持って人間に接する者が多いかっことじる


「音の響きは平穏だけど、なみなみならぬ悪意を感じるわね、ティト」


 だから人をそういう種族みたいに言うな、と、エルフは男戦士を小突く。

 いつもの調子でツッコミを入れているうちに、彼女達を見てひそひそと密談していたものたちは、どこぞへと姿を消してしまった。


「いったいなんだったんだぞ」

「昨日の夜のやり取りが聞こえてたんでしょ。あぁ、もう、恥ずかしい」


 昨日宿屋で男戦士が起こした騒動を思い出して、赤面するエルフ。

 そんな彼女を覗き込んで女修道士シスターが首を傾げた。


「そんなに激しく叫んでらっしゃったんです?」

「それはもうケダモノのように――」

「まるで変なことしてたみたいに言わないでよ!!」


「なんで!? だって、事実じゃないのよ、モーラさん!! あんなに貴方、昨日私のことを、激しく責め立てたじゃない!!」

「責めたけれども!! あぁもう、女言葉やめい!!」


 くねりくねりと腰を回す男戦士を、何度も何度も小突く女エルフ。

 あぁん、酷いわ酷いわ、と、男戦士は小突かれるたびに気色悪い声をあげた。


 そんなやり取りを、仲間の女修道士とワンコ教授は笑って眺める。

 内容はともかくとして、それは男戦士たちパーティのごくごくありきたりな、いつもと変わらないやり取りであった。


====


「ねぇ、聞いた? エルフ狩りの噂」

「聞いたわ。この辺りに、来ているんでしょう、エルフ狩りの一味が」

「さっきのエルフさん狙われないといいけれど」

「女の子ばっかりのパーティだから心配よね。けど、こればっかりはどうしようもないわよね」


「そうならないといいんだけれど」

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