第49話 どエルフさんと旅の宿

 冒険を終えて宿へとたどりついた男戦士一行。


 人当たりのよい老夫婦が経営するその宿屋。

 どうしたことか、都市から離れた村にあるにもかかわらず、今日に限って1部屋しか空きがなかった。


「四人で寝るには、ちょっとうちの部屋じゃ狭いな」

「空き部屋はないんですか?」

「あいにくねぇ。よく分からんが、今日は日が暮れる前に全部埋まっちまったんだ」

「他に宿屋は?」

「もう少し言ったところに酒場がある。私らの顔を出せば、そこの床を貸してもらえるだろうが。どうするね?」

「ということだが、どうする皆?」


 俺は別に酒場でも構わないが、と、男戦士が言う。

 しかしながら彼の背中には、人ひとり分くらいはあろう荷物が背負われていた。


 この暑い砂漠の中を、そんなものを背負って移動するなんて。

 いくら体力馬鹿、それでなくてもアホ、な男戦士にしても、きっと疲れただろう。

 今日くらいは、ゆっくりと休ませてあげたい。


 それは女エルフをはじめ、男戦士以外のメンバー全員の思いであった。


 酒場の床で寝るとなると、まず、疲れはとれないだろう。


「いいわよ、ティトだけここで宿をとりなさいよ」

「いや、しかし、俺だけベッドで寝る訳にも」


「遠慮なんてよくないぞ。疲れてるんだから、ちゃんと休まなきゃ駄目なんだぞ」

「みなさんの言うとおりですよ。ティトさん。貴方が一番パーティの中で疲れているのは明らかなんですから。ちゃんと休んでください」


 責められる様な強い口調で言われた男戦士。

 冒険中はいつも強気な男戦士だが、仲間からの集中砲火を浴びては、流石に我を通すことはできない。


「分かったよ」


 敵わないなという表情で、男戦士はそれを譲った。


 さて、そうなると、残るは誰が酒場で寝るかである。


「ちなみに部屋は何人まで?」

「シングルベッドが二つあるだけだからなぁ。まぁ、そこの嬢ちゃんと抱き合って寝てもらうとして、三人が限界だな」


 とりあえず、これで、男戦士とワンコ教授が、宿に泊まることは決まった。

 残るは女エルフと女修道士シスターのどちらかである。


「モーラさん、疲れておいででしょう。どうぞ泊まってください」

「コーネリアだって、まだ旅に馴れていないから疲れてるでしょう。泊まっていきなさいよ」


 かたやお人よしのエルフ。

 かたや人に親切にするのが仕事の女修道士シスター


 譲り合いは必至。


 これは長くなるだろうな、と、男戦士もワンコ教授も思った。


「私なら大丈夫。ほら、回復魔法で体力は戻せますし」

「それなら私だって。大地の加護で、外で寝てれば自然に体力回復するわ」


「硬い床で寝るのも修行のうちですから」

「エルフ族にはそもそもベッドという概念がないからね。なくても平気よ」


「もし夜中にティトさんが襲ってきたときに、私じゃ抵抗できませんし」

「そんなこと言ったら私なんて、ティトに何度寝ぼけておっぱい揉まれたことか」

「おっぱいのないモーラさんなら実害はありませんが、私の場合は――」

「あるっちゅうねん!! おっぱいあるっちゅうねん!! しばくぞ!!」


 あったわよね、と、男戦士に問いかける女エルフ。


 男戦士は顔を真っ赤にして視線をそらした。

 それで、ようやく、女エルフも、自分が何を言っていたか、気がつく。


 にやり、女修道士の顔が邪悪な笑みで満ちた。


「やはり私では、ティトさんに揉まれたときに、そんな気丈に反応することはできません。モーラさん、貴方にお任せいたします」

「ちょっ、ちょっと、待って!! この話はノーカン、ノーカンだから!!」

「そんなモーラさん。その話は、虫に刺されたと思って忘れるわって、言っていたのに、こんなところで蒸し返すだなんて」

「なんであんたが被害者みたいな感じになってんの!?」


「一度受けた恥辱は忘れない。流石だなどエルフさん、さすがだ」

「寝相の悪いあんたが原因でしょ!! ちょっと――もうっ!!」

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