第46話 どエルフさんと仲間の証

「ところで、ケティ、貴方これからどうするつもりなの?」

「どうする? 決まってるぞ、今回の調査結果をまとめるために、学園に戻って論文をまとめるぞ」

「いや、その、学園に戻る方法、について聞いてるんだけど」


 カラスが鳴くような間が三人を包む。

 あんぐりと口をあけて、目をしばたたかせていたワンコ教授は、暫くしてようやく自分の置かれている状況を理解した。


「忘れていた、どうやって帰ればよいか、まったく考えてなかったんだぞ!!」

「貴方ってそういうそそっかしいところあるわよね」


 ぬああ、どうしよう、と、頭を抱えるワンコ教授。

 尻尾と耳がひこひこと動く中、そんな彼女に、エルフが近づいた。


「その学園が何処にあるのか分からないけれど、これから私たちも砂漠を抜けるし、暫く一緒に旅するっていうのはどう?」

「えっ、いいのか!?」


 同意を求めるようにワンコ教授が視線を向けたのは男戦士。

 情けなくとも、スケベだろうとも、一応、この男がパーティの


「まぁケティの知識は何かと役に立つからな」


 むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ。

 男戦士の言葉に、慌てふためき揺れていたワンコ教授の耳が止まった。


 少しの迷う素振りもみせず、ワンコ教授はその誘いに答えた。


「ありがとう!! それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうんだぞ!!」

「その代わり、これからは雇い主と雇い人じゃない。旅の仲間として扱わせてもらうぞ、いいな?」


「もちろんだぞ!! むしろ僕は今もそのつもり――」


 はっと、慌ててワンコ教授は口を塞いだ。

 どうかしたのかと尋ねたが、なんでもないぞ、と、彼女は首を横に振る。


 しかしながら、その手で覆って隠した口の端が、楽しそうにつりあがっていることは、隠すまでもなく男戦士にも女エルフには分かっていた。

 ついでに、彼女がとっくの昔に、自分たちに心を開いていることにも。


【ケティが仲間になった♪】


「では、旅の仲間になったケティに、一つ大切なことを教えよう」

「なんだぞ、仲間かどうかを確認する、合言葉か!?」


 わくわく、と、男戦士に近づくワンコ教授。

 かわいらしい仲間の参入をほほえましく見つめる女エルフ。ふと、そんな彼女に向かって、男戦士は指をさした。


 ふん、ふん、と、首を傾げる狗族の娘。

 しかしその顔がどんどんと、みるみるうちに、青く、そして、白く染まっていく。

 男戦士が話を終えるころには、ワンコ教授の顔色は、まるで青ナスのように白くなっていた。


「分かったかケティ。くれぐれも、慎重に、丁寧に扱うんだぞ」

「わ、わかったんだぞ。気をつけるんだぞ」

「おいこら、アホ戦士。いったいその娘になにを教えた。場合によってはしばくぞ」


「な、なんでもないんだぞ。モーラさんの胸のサイズなんて、聞いてないんだぞ」「そうだそうだ。仲間の証に、モーラさんのバストサイズを教えるなんて。そんなこと俺はしてないんだぞ」


 山といえば川。

 谷といえば水。

 女エルフモーラといえばAAAトリプルエー


 これは、エルフ娘だけが知らない、パーティの暗号であった。


 なぜ知らないのか。


「なに勝手に人の身体的特徴コンプレックスを、合言葉にしてるのよ、馬鹿ァ!!」

「個人情報だから、ほどよくいいかなと思って!!」

「ていうかなんで知ってるのよティト!!」

「測るまでもないだろう、そんなの!!」

「どういう意味よ!! この、スケベ戦士!!」


 火の玉が男戦士に直撃する。

 あちちあちちと火達磨になって踊りながら、こうなることが分かっていたから、言わなかったんだ、と、彼は叫んだ。


「分かってるなら最初からするなァ!!」

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