第35話 どエルフさんと宮殿

「地図によれば、ここがロラン一の大豪商が住んでいたという宮殿だぞ」


 砂漠を漂流する古代都市ロラン。

 ワンコ教授の案内で廃墟内へと突入した男戦士たちがたどり着いたのは、なんとも厳かな威容を放つ石造りの建物の前であった。


 長らく風雨にさらされて壁の塗装がすっかりとはがれている宮殿。


 むき出しの灰色のそれには、象やライオンといった、動物の姿が刻まれている。

 もし、往時の姿を留めていたなら、躍動的なそれらの姿が拝めたことだろう。


 見上げるのは中央の塔。

 王族の力の象徴だろうか。必要であればそこより、ここまで男戦士たちが歩いてきた街並みを、一望できることだろう。


「なかなか立派な文明じゃない」

「ここの砂漠はかつて東国との玄関口になっていたんだぞ。この古代都市は、その中継拠点としておおいに栄えていたんだ」


 昨日の町は、この都に住んでいた者たちの子孫が作った集落なんだ、と、訳知り顔でいうワンコ教授。

 はて、と、首をかしげたのは女修道士シスターだ。 


「そんな栄えていた古代都市が、どうして滅んでしまったのでしょう」

「それなんだ。この古代都市ロランについては、各国の文献の中にも名が登場するくらいの有名な都市なんだが、その滅亡の理由が長らく謎だったんだ」

「ふぅん、それで調査に来たってわけ」


 そのとおりだぞ、と、ワンコ教授。

 彼女は背中に背負っていたナップザックを下すと、その中からカンテラと丸められた地図を取り出した。


 地図をその場に広げて、犬耳少女はその一角を指さす。

 描かれていたのは間取り図。描かれている象や虎のマークから、どうやら、目の前にしている宮殿のものらしい。


「その謎を解くヒントが、この宮殿にあるらしいことが、この地図によって分かったんだぞ」

「ほう」

「見てくれ、この豪商の子息たちの部屋という場所を」


 言われるままに男戦士たちは地図をのぞき込む。


 間取りが確かであれば、宮殿の奥、東側の端の部屋に、子息たちの部屋というスペースがある。しかし、子供だろうと、大人だろうと、生活するにはそのスペースはどうにも小さく見える。

 それこそ宮殿の廊下とそう変わらないくらいの幅しかないのだ。


 なにより、その子息たちの部屋、と記されている場所のマークがおかしい。


「ここに描かれているマークは、もしかして、階段を意味しているのか?」

「分からないんだ。ただ、事前に知り合いの魔法使いに頼んで千里眼で確認してもらったんだが、ここに、んだそうだ」


 なんだかいやな感じがするわね。


 背筋に冷たいものを感じたのは、エルフ娘だけではない。ワンコ教授も女修道士も、能天気な男戦士までもが、背筋に冷たいものを感じて震えた。


 その震えを誤魔化すように、ワンコ教授が手早く地図を丸めた。


「まずはここまで連れてってほしいというのが、僕から君たちへの依頼になる。道中は、正直、広大な宮殿だ。老朽化もしているだろう、君たちの案内に任せるよ」

「分かった」

「アイテムについては見つけたら僕に声をかけてくれ。その場で鑑定して、価値の低いものであれば持って行ってくれて構わない」


 行こう、と、先陣を切ろうとするワンコ教授。

 と、その肩を男戦士が止める。


「依頼人に先陣を切らせるわけにはいかない。まずは後ろに下がっていてくれ」

「そ、そうだな。僕としたことが、つい、勇み足だったぞ」

「そうですよ、こういうのには適任者というのがあるんです」

「そうそう、例えば、どんな罠にかかっても、ケロッとしてそうな奴とか」


 つっと男戦士に目をやった女エルフ。

 しかし、その視線は、なぜだか彼女の方に集まっていた。

 いやいや、なんでよ、と、エルフ娘。


「昨日、酒場の扉をスルーしたあの回避力は見事だった」

「モーラさんなら、どんなトラップが発動しても、紙一重でかわしそうですね」

「なるほどあの胸なら確かに身軽そう」


「おい!! 身軽関係ないだろ!! 胸の二つかそこいらで、回避判定にボーナスついたら怖いわ!!」


【スキル「ど貧乳」:君は女としての自分を捨てた代わりにすばやさを手に入れた。回避判定+2のボーナス。え、捨てたつもりはない? またまた、ご冗談を】


「ツクンカァアアアイ!!!」


 スキル妖精のささやきに、エルフ娘が発狂した。

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