第34話 どエルフさんと蜃気楼
「砂漠の中を移動する魔法遺跡ねぇ」
「月の暦に従って動く流動砂に乗って移動してるんだぞ。長らく噂だと思われていたんだけれど、つい数年前、僕がフィールドワークでその存在を確認したんだぞ」
「地味にすごいんですね、このワンちゃん」
えらいえらいと、
子ども扱いするんじゃないぞと、それを振り払うと、彼女は白衣の袖をまくって腕を組んだ。
ワンコ教授との出会いから一晩あけて。
再び砂漠へと戻ってきた男戦士一行は、件の遺跡を知っているワンコ教授の案内で、その中ほどへと進んでいた。
ランドマークの人面に見える大岩を前にして、四人は立ち尽くす。
見えたぞ、と、犬教授が弾んだ声をあげると、吹き荒れる砂の中にうっすらと、土色をした街の姿が現れた。
蜃気楼ではない。その証拠に、じわりじわりとこちらに近づいてきているそれは、しっかりとした輪郭を伴っていた。
漂流古代都市ロラン。
それは男戦士たちの前に立つ、たれ耳獣人娘がつけた、その都市の名であった。
「本当に現れたわ」
「正直、砂漠を流浪する魔法都市なんて、話半分なところもあったんだが」
「どうだ、僕が説明したとおりだっただろう。ふふん」
自慢げに胸を張る犬娘。
悲しいかな、その胸がエルフ娘よりマシなくらいしかないのが、なんとも哀れである。
「とすると、学園の教授って話も本当なのね」
「信じていなかったのか!? 酷いぞ!! この容姿から溢れ出てくる僕の知性が分からないのか!?」
「まぁまぁ、落ち着いてください、ケティちゃんさん」
「ちゃんをつけるな!! まったくお前ら、本当に礼儀をしらない奴らだな!!」
また狗族の娘の頭を撫でる女修道士。
今度は女エルフまでそれに混じっている。
うがぁとそれを両手で振り払うと、狗族の娘は牙を剥いて二人をにらんだ。
さて、そんな感じで獣人たちと、女たちが戯れる中、ふと、男戦士が難しい顔をした。
どうせまたろくでもないことを考えているんだろうな。
とは、女エルフ。
「移動する都市か。古代人も考えたものだな」
「蛮族の侵入を防ぐにはこの上ない仕掛けよね。一つどころにとどまらず、その時砂漠のどこにあるのか分からないから攻めようがない」
「ないようで、じつはある、しかしながら限りなくない。ふっ、まるで誰かのことのようだな」
「おっと、誰のことかな?」
「モーラさん、君のその蜃気楼のようなそれも、敵の目を欺くためなのかい?」
「蜃気楼じゃないから。ちゃんとあるから」
どこのことかって。
言わせんなよ、恥ずかしい。(主にどエルフさんが)
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