第33話 どエルフさんとど教授ちゃん

「なに、貴方、子供じゃなかったの?」

「見た目で人を判断するとかどんな教育受けているんだ!! 狗族でも種別によっては成人でもこのサイズなんだぞ!!」

「まぁまぁ、そう怒らないでくれ。彼女は田舎育ちで獣人もそんなに見たことがないんだ」

「失礼な奴らだぞ、まったく!! これだから冒険者は嫌いなんだ!!」


 ぷんすか、と、怒りながら牛乳とパンを頬張る狗族の娘。

 その容貌からは、どうやっても想像つかないが、彼女は成人した狗族の女だった。


 黒いインナーの上からところどこ黄ばんでいる白衣を羽織、顔にめがねをかけた獣人の少女は、ひょこひょこと耳と尻尾を動かしながら、パンをがっつく。

 浮浪者、という感じではない。

 しかしこんな砂漠を越えた街に居るような人物にも見えない。


 なんだろうかね、この人は、と、男戦士たちは首を傾げた。


 酒場の前で狗族の娘とぶつかってから半刻。


 三人と狗族の娘は、酒場で同じテーブルを囲んで食事をしていた。

 というのも、狗族の娘のお腹から、三人もびっくりするぐらいの腹音が飛び出したからだ。

 顔を真っ赤にしてたじろぐその姿を見かねて、よかったら一緒にご飯を食べないか、と、女修道士シスターが尋ねたのだ。


 しかし、まぁ、同席しておいて、随分な言い草である。


「確かに今、手持ちはないけれども、学園に戻ったら充分な報酬は」

「学園ってことは、学生さん?」

「教授だ!! あんな浮かれた馬鹿どもと一緒に見えるのか、この僕が!!」


 ぷんぷんすかと怒る狗族の娘。

 彼女なりに懸命に怒っているつもりなのだろうが、三人の間には、ほほえましい空気しか流れてこなかった。


「言動はともかく、仕草はかわいいわね」

「垂れ耳種だからかな。癒されるな」

「思いっきりもふもふしたいですね」


「なんだその眼は!! 僕のことを馬鹿にしてるのか、馬鹿にしてるんだな!!」


 いやいやそんな、と、首を振る三人。

 その瞳は可愛い娘を見るそれになっている。


 ぐぬぬと狗娘。


「で、そんな教授さんが、いったいどうしてこんな所に?」

「古代遺跡の調査だぞ。この辺りに古文書にある遺跡があると聞いてやって来たんだが、いざ突入という段階で、雇っていた冒険者達をキャラバンに横取りされたんだ」

「酷い話だな」


 冒険者とて商売人。

 より報酬のよい仕事があれば、そちらに乗り換えるのは間違ってはいない。


 そういうのを防ぐために、冒険者ギルドを仲介して依頼のやり取りはするものなのだが、どうやらこの教授は直接雇用してしまったらしい。

 ギルドを介しての仕事でないとなれば、それをきっちり履行するかは、当事者間の問題になってくる。


 世界は広い、ところで、悪評などそうそう広まるものではない。


「ギルドに登録していない冒険者は、だいたい性質タチの悪い奴らだからな。今からでも、冒険者ギルドに依頼登録してはどうかな」

「そんなお金があったらとっくにしてるぞ!! だから後払いで仕事を受けてくれる冒険者を探してたんだが――」


 ぐすん、と、涙ぐむ狗娘。

 さきほど酒場を飛び出してきた様子からして、上手く交渉できなかったのだろう。


 なるほどな、と、男戦士は頷いた。

 そんな彼を物言いたげに見つめる視線が二つ。


 それに答えるように、男戦士は穏やかな微笑を狗族の娘へと向けた。


「分かった、その依頼、俺たちが受けようじゃないか」

「本当か!?」


「ティトさん」

「まったく仕方ないわね。ティトのお人よしは」


 ただし、と、男戦士は付け加える。


「報酬は現物支給にしてくれ。遺跡で見つかったアイテムの類で、いくつかを分けて貰いたい」

「それは、歴史的な価値を考えると」

「もちろん君が充分吟味した上で、、と判断したもので大丈夫だ」

「そ、それなら大丈夫だぞ!! うん、僕は全然その条件で構わない!!」


 古代遺跡から出土されるアイテム――魔法遺物オーパーツには、強い魔力を帯びたものが多い。

 それらの魔法遺物オーパーツは、普通に入手しようとすれば、男戦士たちのギルドでの報酬ではとてもではないが手の届かないものだ。


「なに、魔法剣の一つでも手に入れば、充分におつりは来る」

「もうすっかり荒らされてるかもしれないけど。まぁ、遺跡調査の専門家が居れば、隠し部屋とか見つかるかもしれないわね」

「この出会いもきっと神の思し召し。悪いようにはなりませんよ」


 では、決まりだな、と、男戦士。

 果実の絞り汁が入った杯を、テーブルの上にかかげる男戦士。それにあわせるように、おのおの飲み物を掲げると、彼らはその縁をつき合わせた。


「いこう、の眠る、古代遺跡へ!!」


魔法遺物オーパーツよ、このおバカ!!」

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