第27話 どエルフさんとエッチな水着

「モーラさーん。おーい、モーラさんやーい」


 男戦士が女エルフ探して水辺をさまよっている。

 ここはオアシスのほとり。


 砂漠を行きかう人々が喉の渇きと肌のみずみずしさを取り戻すべく、集まるこの場所で、男戦士たちも旅の疲れを癒していた。

 のだが――。


「居ましたか、ティトさん?」

「いや、見当たらない。まったく、いったいどこへ消えたんだか」


 例によって例のごとく、スケベなハプニングと下世話な話に事欠かないエルフ娘。

 隙の多い彼女は今回もまた、うかつに公衆の面前で湖に飛び込み、濡れてスケスケの肌をおやじ共の前に晒すという醜態を演じてしまった。


 当然、うらわかき三百歳の乙女が、そんな羞恥に耐えれるはずもなく、すぐに彼女は湖を飛び出すと、藪の中へと隠れてしまった。


 透明化の魔法でも使ったのか、それとも、背を低くして隠れているのか、それから彼女は行方知れず。こうしてパーティメンバーが探しているという次第である。


「べつに見せて減るものなんてないのに、どうしたんでしょう」

「いや、まぁ、そうだな――」


 輝くしいたけお目目でなんでもない風に言う女修道士シスター

 あまり深くは考えなかったが、それでも男戦士は言葉を濁した。


 そうして二人はまた分かれて女エルフを探す。

 かに、思えた。


「モーラさん。そこにいるんだろう?」


 男戦士は湖の方を向いて立ち尽くすと、どこへと向けずにそんな言葉を口にした。


 もそり、と、彼の背中の藪が動く。

 にょきりと出てきたのは、エルフの尖った耳。


「――どうしてわかったのよ」

「わかるさ。俺たちも随分長い付き合いじゃないか」


 おびえる子供をなだめるようなそんな口ぶり。

 男戦士は、決して女エルフの方を振り返らずに、そんな優しい言葉を口にした。


「俺が気づいて止めるべきだった。すまない、モーラさん」

「いいのよ、別に、私の不注意だから」

「不注意なのは俺の方だ。エルフの君が砂漠の旅に疲弊しているのを、もっと早く気が付くべきだった」

「ティト」


 男戦士の気の利いたセリフに、藪の中から飛び出た耳が、少し赤らんだ。


 普段は無骨で野暮な発言の目立つ男戦士だけに、そんな気遣いが妙にうれしかったのだ。


「ほんとうに、いいのよ、ティト。貴方が気にすることなんてなにもないの」

「いいや、本当にすまない。もっと早く、俺が行動していれば」

「そんなことはないわ――って、行動?」


 ごそりごそり、と、腰の袋をまさぐる男戦士。

 するり、と、そこから抜き出したのは、ピンク色をした布。


 そう、なんとも面積の小さな、紐のような、それでいて、三角形のそれは――。


「こんなこともあろうかと、用意しておいたんだ。エッチな水着を。これを渡していれば、どうどうと水浴びが」

「着ないから!! そんなの、絶対に着ないから!!」


「なんだって!? それじゃ、ヌーディスト――」

「何も着ないとかでもないから!! というか、なんでそんなもの買ってるのよ!! このどスケベ!!」

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