第20話 どエルフさんと村の入り口に立ってる人

「ようこそ! ここはアボリーの村だよ!」


 鍬を持った好青年が通りかかったエルフ娘に向かって声をかける。


 にっこりと笑って、エルフ娘はその横を通り過ぎた。

 そして、折り返してもう一度彼の前を通り過ぎる。


「ようこそ! ここはアボリーの村だよ!」


 さきほどと同じセリフ。そして同じ表情。

 気味の悪いくらいの再現っぷりにあきれたのか、はたまた、代り映えのない挨拶に失望したのか、エルフ娘の顔が歪む。


 なにを思ったのか、取り出したのは、魔法の杖。

 その先を男に向ける――その刹那、赤く輝く火の玉が男に向かって飛んだ。


「ようこそ! ここはアボリーの村だよ!」


 絶命の声さえも同じセリフ。

 はぁ、と、エルフ娘がまた深いため息を吐いたのは無理もない。


「バケマネキンの繁殖地か。初めて見たな」

「巧妙に化ける癖に、セリフが固定なのが間抜けなモンスターよね」

「放棄された村落に巣を作るとは聞いていたが、やれやれ、これは骨が折れそうだな」


 ここは元アボリーの村。


 数十年前に、人口の減少で放棄されたこの村には、現在、このバケマネキンたちが生息している。

 基本的に人畜無害なモンスターではある。

 だが、この地に先祖の墓を残して転居したものたちは、そう少なくない。

 彼らからすると、自らの故郷に紛れ込んだモンスターたちは、墓参りに来るたびに目につく、煩わしいものであった。


「あと十年もしたら、街の姿ごとこいつらも消えるのに。非寛容なことだわ」

「まぁ、これも仕事だしかたない」


 まねされないうちにさっさと帰りましょう、と、エルフ娘。

 すると、そんな彼らの前に、ぬっと、また人影が現れた。


 金髪の髪に、絹のような白い肌、尖った耳。

 そして、隠しきれぬ貧乳。


 その姿には見覚えがあった。当然のように、女エルフの顔が曇る。


「いってるそばから真似されてしまったな」

「勘弁してよ、まったく」


 それは目の前のエルフ娘に瓜二つ――いや、まさしく彼女に化けた、バケマネキンであった。


「いいわよ、別に。自分の姿をしてるからって、やることは変わらないわ」

「そうだが少し気が引けないか」

「この世には自分に似た顔の人間が三人は居るっていうのよ。気にしたら負けよ」


 君はエルフじゃなかったっけか、と、突っ込みそうになる男戦士。

 そんな彼を差し置いて、女エルフが再び杖を自分の姿をしたモンスターに向けた。


 悪いわね、と、声をかけたその時。


「うふーん、お兄さん、パフパフしていかない?」


 突然、バケマネキンが、そんな決め台詞を発した。


 もう一度。


「うふーん、お兄さん、パフパフしていかない?」

 

 まったくパフパフするところなんてない、その大平原をよせてみせて。

 女エルフ――に、化けたモンスターは、無茶なことを言う。


 当然、真似された本人も、それを見ていた相棒も、あまりにショッキングな出来事に固まってしまった。


「うふーん、お兄さん、パフパフ」

「なんでよりにもよってそのセリフなのよ!! バカにしてるの!!」

「落ち着けモーラさん。バケマネキンのセリフが、真似した人間の姿に関係ないのは、君もよくしってるだろう!!」

「けど、ティト、これ、いくらなんでも、あんまりじゃないのよ」


 どうして、と、涙ぐむエルフ娘。

 震える彼女の肩をそっと抱く、男戦士。


「よく、男に化けたバケマネキンが、このセリフを言うこともあるそうだ――だから、あまり気にしちゃいけない」

「慰めになってない!!」

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