第19話 どエルフさんと農作物

「モーラ先生、これ、うちの裏で採れた果物。もってってよ」

「あら、いいの。ありがとうおばあちゃん」


 野良仕事の手伝いを終えて、街へと戻ろうとした女エルフに老婆が声をかける。

 手に持っていたのは籠に入れられた果物の山。


 林檎。

 柿。

 蜜柑。


 街で買えばそこそこ値を張るものばかりである。

 おぉ、と、男戦士が声を漏らしたのは無理もなかった。


「いつも思うが、どこの村行ってもすごい慕われようだな」

「まぁね。ここら辺の村は、昔からいろいろと相談にのっているから」

「相談?」

「ティトと冒険に出る前にいろいろとね」


 まぁそのうち話すわ、と、エルフ娘は女修道士に告げる。


 そうしてお礼を言って去ろうとする彼女に、また、違う村の住人が声をかける。


「モーラさん、これ、うちで採れた大根じゃ」

「先生、ナスが今年は豊作でな。食ってもらおうと採っておいたんじゃ」

「ズッキーニが――」


 次々にやってくる訪問者たちに、野菜やら何やらを押し付けられる女エルフ。

 困った困った、と、汗を垂らす彼女。


「こんなにいっぱいお腹に入らないよ」


 瞬間、男戦士の顔がいつものように固まった。


 あ、はい、お約束のあれですね、と、エルフ娘の顔も一転冷静になる。


「お腹に入れる――。そんな、農家の皆さんが大切に育てたそれを、そんなことのためにモーラさんは使おうというのか!!」

「あぁうん、傷んじゃうか早く食べないとって、そういうつもりでいったんだけど」


「大丈夫です、前と後ろ、それに、私のも使えばかろうじて」

「うん、アンタも全力で乗っかってんじゃないわよ、コーネリア」

「――待ってくれ、まだ、心とお尻の準備が」

「なんでお尻抑えてるのよ!! しないから、アンタらの勘違いだから!!」


 顔を真っ赤にして否定するエルフ娘。

 そんな娘に、老人が裏の竹林で採れたタケノコをもって来た瞬間、男戦士と女修道士はその場に卒倒した。


「食欲とともに性欲も満たすとは、なんて無駄のなく効率的な発想!! 流石だなどエルフさん、さすがだ!!」

「エルフの自然を愛する心の源流は、まさしく、野菜を愛するところから来ていたのですね。勉強になりました」

「いや、違うから。ほんと、あんた等いい加減にしなさいよ――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る