第17話 どエルフさんと大根

「今年も豊作ねマンドラ大根」


 いつもの冒険者の服から野良着姿にチェンジしたエルフ娘。

 麦藁帽を傾けると、額にたまった汗を野良着の袖で拭う。


 ここはエルフ娘にゆかりのある山村。

 彼女は相棒の男戦士と女修道士に無理を言って、山村の収穫の手伝いにやってきたのだ。


「モーラ先生、すまねえな、忙しいところ手伝いに来てもらって」

「ティトさん、それにお仲間のシスターさんもありがとねぇ」


 村の爺さん婆さんが、まるで神か仏かという感じに男戦士と女修道士を拝む。


 神に仕えて長い女修道士は、その代わりに崇められるのはなれたものだ。

 一方で、そんな風に接せられることなどなかった男戦士は、どうしていいのかと戸惑って、柄にもなくおたおたとした顔をしていた。


「いやいや、そんな、頭をあげてください。魔物退治と比べれば、この程度の野良仕事たいしたことでは」

「はぁ、頼もしいなぁ。さすが、歴戦の戦士さんだべ」

「んだんだ。モーラ先生も、えぇ、婿さ捕まえたもんだべ」


 婿!? と、驚く男戦士。

 もちろんそれは村人たちの勘違い。男戦士にとっては、エルフ娘は大切な仲間という意識はあっても、そういう対象ではないのだ。


 いや、ない訳ではないが、そこは仕事。割り切っていた。


 そこはエルフ娘も同じ。


「やだちょっと。ティトはそんなんじゃないわよ。ただの相棒よ」

「なんだべ、そうなんけぇ」

「てっきりモーラ先生のいい人かと。あんれえ、いやだわ。はよいってよ」


 もう困ったおじいちゃんたち、と、笑うエルフ娘。

 ごめんね、と、戦士の方を向いた彼女は、そこで、ようやく、戦士と女修道士がこわばった表情で、大根を抱えながら突っ立っているのに気が付いた。


 はい、また、なんか踏んだは、これ。


「相性の良い棒!! 君にとって、俺は、ただ、都合のいい道具でしかないということなのか、モーラさん!!」

「いやいやいやいや、そんな受け方する!?」


 というか、今までもさんざん相棒がどうとかやり取りしてきたじゃない、と、エルフ娘。

 しかし、どうしたことか、男戦士の涙は止まらない。


「君の心の寂しさを、紛らわすことができるなら、それでもいいかと思うこともあった。けれども、けれども、そんな風に思われていたなんて。俺は、俺は、君のことをこんなにも思っているというのに。だけど、君は」

「ちょっと、ティト、なんか雲行き怪しくなってきたから、お願い、落ち着いて」


「ティトさん。男は操を立てるもの、女は操を守るものといいます。守るべき操のないモーラさんに、それを期待するのは酷では?」

「おい、ちょっと待て、失礼だぞ。誰が守る操がないって?」


「え、あるのかい?」

「あるんですか?」

「あるのかのう?」

「あったのかい?」


 じっと、エルフ娘を取り囲む視線。

 はめられた、そう、気が付いた時には、ヒューマンたちの処女を見る目は、興味深く細まっていた。


 するり、と、エルフ娘の目が滑る。


「さ、さて。それじゃ、今日は頑張って、マンドラ大根料理作っちゃおうかしらね」

「誤魔化さないでくれモーラさん!! ヴァージンエルフなのか、それともどエロビッチエルフなのか、はっきりしてくれないと、今後の冒険の展開が立てられないじゃないか!!」

「だぁもう、どうして貴方ってそう、言葉を選ばないのよ!! ほんとバカ!!」

「中古なのか新品なのか!! まさか、新古品のアーティファクトですの!?」

「変なジャンル開拓するな!! どういう意味よ新古品って!!」

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